236Pとは?波動拳コマンドを解説

ネットゲーム初心者
先生、『236P』ってどういう意味ですか?

ネットゲームの達人
それは、格闘ゲームのコマンド入力の略だよ。”236″はレバーを下、右斜め下、右と入力し、”P”はパンチボタンを押すことを意味するんだ。

ネットゲーム初心者
なるほど、つまり「波動拳コマンド」のことなんですね!

ネットゲームの達人
その通りだよ。このコマンドは、ストリートファイターシリーズでリュウやケンが使用する必殺技「波動拳」を入力する際に使われるんだ。
236Pとは。
「オンラインゲームで『236P』と呼ばれる入力コマンドは、通称「波動拳コマンド」として知られています。」

1. 序論:236Pという記号が持つ意味と重要性
1.1 対戦格闘ゲームにおける共通言語としての「236P」
対戦格闘ゲーム(Fighting Game)というジャンルにおいて、「236P」という文字列は、単なる操作手順を示す記号以上の意味を持っています。
これは、1980年代後半に誕生した2D格闘ゲームの始祖的タイトルから脈々と受け継がれてきた「遺伝子」であり、世界中のプレイヤーを繋ぐ「共通言語」として機能しています。
ユーザーの皆様が疑問に思われている「236Pとは何か」という問いに対し、本レポートではその定義、歴史的背景、技術的構造、そして実践的な習得理論に至るまで、徹底的な解説を行います。
一般的に「波動拳コマンド」として知られるこの入力方式は、レバー(方向キー)を下から前方向へ4分の1回転させ、同時にパンチボタンを押すという動作を指します。
しかし、なぜ「下・右下・右」ではなく「236」と表記されるのでしょうか。
また、なぜこの入力方式が30年以上もの間、ジャンルのスタンダードとして君臨し続けているのでしょうか。
その背景には、ゲームデザインの進化、コミュニティのグローバル化、そして入力デバイスの技術革新が深く関わっています。
1.2 本レポートの目的と構成
本レポートは、格闘ゲームの初心者から上級者、あるいはゲームデザインに関心を持つ研究者を対象としています。
単なるコマンドの出し方にとどまらず、以下のような多角的な視点から「236P」を解剖します。
- 記号論的アプローチ:なぜ数字で表記するのか、その合理性と国際的な普及背景(テンキー表記)。
- 工学的アプローチ:ゲームエンジンはどのようにして「236」を認識しているのか、入力バッファとフレームデータの仕組み。
- 人間工学的アプローチ:アーケードスティック、パッド、レバーレス(Hitbox等)における指の動きと物理的制約。
- 教育学的アプローチ:初心者が直面する「出ない」「暴発する」という壁を乗り越えるための学習理論。
これらを通じ、単なる操作説明を超えた、格闘ゲームの深淵なる世界への案内図を提供します。
2. テンキー表記(Numpad Notation)の記号論と歴史
2.1 テンキー表記の定義と構造
「236P」という表記法は、PCのキーボードにあるテンキー(数値キーパッド)の配置を、ジョイスティックの入力方向に見立てたものです。
この表記法は「テンキー表記(Numpad Notation)」と呼ばれ、特に日本を中心とした「アニメファイター(Anime Fighters)」のコミュニティで発達し、現在では世界標準になりつつあります。
格闘ゲームでは、キャラクターが画面の左側(1P側)におり、右を向いている状態を基準(ニュートラル)とします。
この時、レバーを中心(5)に置いた場合、各数字は以下の方向に対応します。
| 数字 | 方向(英語表記) | 方向(日本語) | 格闘ゲーム的な意味 |
| 7 | Up-Back | 左上 | 後方ジャンプ |
| 8 | Up | 上 | 垂直ジャンプ |
| 9 | Up-Forward | 右上 | 前方ジャンプ |
| 4 | Back | 左 | 後退 / ガード |
| 5 | Neutral | 中立 | 入力なし / 立ち状態 |
| 6 | Forward | 右 | 前進 |
| 1 | Down-Back | 左下 | しゃがみガード |
| 2 | Down | 下 | しゃがみ |
| 3 | Down-Forward | 右下 | しゃがみ前進 / 斜め入力 |
このマトリクスに基づくと、「236」という数字の並びは、レバーの物理的な位置が「下(2)」から始まり、「右下(3)」を経由して、「右(6)」へ移動する軌跡を表していることがわかります。
そして、末尾の「P」は「Punch(パンチボタン)」を意味します。
つまり、「236P」とは、「下、斜め下、前とレバーを滑らかに動かしてからパンチボタンを押す」という一連の動作、すなわち『ストリートファイター』シリーズにおける「波動拳」の入力を指し示しているのです。
2.2 なぜ「QCF」ではなく「236」が選ばれるのか?
かつて欧米圏、特に初期のインターネット掲示板やFAQサイトでは、「Quarter Circle Forward(前方へ4分の1回転)」の頭文字をとって「QCF」と記述するのが一般的でした。
同様に、波動拳の逆回転(214)は「QCB(Quarter Circle Back)」、昇龍拳(623)は「DP(Dragon Punch)」や「SRK」と略されていました。
しかし、現代の格闘ゲームシーンにおいて、特にテクニカルな議論の場では「236」という数値表記が圧倒的な支持を得ています。
その理由は、以下の3つの「壁」を打破するためです。
2.2.1 言語の壁(Language Independence)
「QCF」は英語の略語であるため、英語を母国語としないプレイヤーにとっては直感的な理解を妨げる障壁となり得ます。
一方、アラビア数字は世界共通の記号です。日本のプレイヤーも、アメリカのプレイヤーも、フランスやブラジルのプレイヤーも、「236」という数字を見れば、即座に同じレバー操作を脳内で再現できます。
これにより、国境を越えたコンボレシピの共有や、戦略の議論が可能になりました。
インターネットを通じてグローバルに情報が交換される現代において、この「言語非依存性」は最大のメリットと言えます。
2.2.2 複雑性の壁(Precision and Complexity)
格闘ゲームの進化に伴い、入力コマンドは複雑化の一途を辿りました。
単純な波動拳(236)であれば「QCF」で事足りますが、例えば『ギルティギア』シリーズの覚醒必殺技に見られる「632146(前・半回転後ろ・前)」や、空中コンボにおける複雑な制御をアルファベットで表現しようとすると、「HCB, F」などと長くなり、可読性が著しく低下します。
さらに、「空中で一瞬後ろに入れてから前へ」といった微細なニュアンス(6など)を伝える際、数字表記は極めて高い記述能力を発揮します。
2.2.3 デジタルコミュニケーションの壁(Typing Efficiency)
SNSやDiscordなどのチャットツールで攻略情報をやり取りする際、矢印記号(⬇️↘️➡️)を変換して入力するのは手間がかかります。
また、フォント環境によっては矢印が正しく表示されないリスクもあります。
テンキー表記であれば、PCやスマートフォンのキーボードから直接数字を打ち込むだけで済み、迅速かつ正確なコミュニケーションが可能となります。
これは、リアルタイム性が求められる攻略情報の拡散において非常に重要な要素です。
2.3 236以外の重要コマンド表記
「236」を理解するためには、対となる他の主要コマンドについても把握しておく必要があります。
これらはすべてテンキー表記の原則に従っています。
- 214 (Quarter Circle Back / QCB):「下(2)→左下(1)→左(4)」。波動拳とは逆の回転を描くコマンドで、「竜巻旋風脚」などに用いられます。
- 623 (Dragon Punch / DP):「前(6)→下(2)→斜め下(3)」。いわゆる「昇龍拳コマンド」です。欧米ではレバーの軌跡がZ字を描くように見えることから「Z-Motion」とも呼ばれますが、数字表記の方が正確に動作を伝えられます。
- 41236 (Half Circle Forward / HCF):「左(4)から下を経由して右(6)へ」。レバーで半円を描く入力です。「ヨガフレイム」などがこれに該当します。
- 632146 (Half Circle Back Forward):『GUILTY GEAR』や『KOF』などで超必殺技によく使われる複合入力です。「前→下→後ろ→前」という長いストロークを必要とします。
3. 「236P」の内部構造:ゲームエンジンと入力ロジックの解析
プレイヤーが物理的に「236P」と入力した際、ゲーム内部のプログラム(インプットインタープリター)はどのような処理を行っているのでしょうか。
この「ブラックボックス」の中身を理解することは、入力ミスを減らし、より高度な操作を習得するための鍵となります。
3.1 入力バッファ(Input Buffer)と履歴管理
格闘ゲームは通常、1秒間に60回(60FPS)の画面更新を行っています。
ゲームエンジンは、プレイヤーからの入力を毎フレーム監視し、それを「入力履歴(Input History)」としてバッファ(メモリ)に一時保存しています。
例えば、プレイヤーが「波動拳」を出そうとした時、バッファには以下のようなデータ列が記録されます(数字はフレーム経過を表します)。
- Frame 1: 2 (Down)
- Frame 3: 3 (Down-Forward)
- Frame 5: 6 (Forward)
- Frame 6: 6 + P (Forward + Punch)
ゲームプログラムは、パンチボタンが押された瞬間(Frame 6)に過去の履歴を遡及的にスキャンします。
「ボタンが押された」→「直前に前方向(6)が入っている」→「その少し前に下方向(2)が入っている」という条件が満たされた場合、通常技のパンチではなく、必殺技である「波動拳」を発生させるという判断を下します。
3.2 厳密性と「遊び」(Input Leniency)
初期の格闘ゲーム(『ストリートファイターII』の初期バージョンなど)では、この判定が極めて厳密でした。「2、3、6」のすべての要素が正確に入力されていなければ技が出ず、特に「3(斜め)」が1フレームでも抜けると失敗とみなされました。
しかし、現代のゲーム(『ストリートファイター6』、『GUILTY GEAR -STRIVE-』、『鉄拳8』など)では、操作の難易度を下げるために「入力補正(Input Leniency)」や「ショートカット」が実装されています。
例えば、多くの現代タイトルでは、「236」と入力すべきところを「2・6(下・前)」と入力し、間の「3」が完全に抜けてしまっても、一定時間内であれば波動拳として認定するシステムを採用しています。
また、「2369(前ジャンプ)」までレバーが流れてしまっても、ジャンプする前に技が出るように優先順位が調整されている場合もあります。
3.3 フレームウィンドウと受付時間
「2」を入力してから「6+P」を入力するまでの間には、許容される制限時間(ウィンドウ)が存在します。
一般的には10フレームから15フレーム程度(約0.2秒〜0.25秒)の間に入力を完了させる必要があります。
このウィンドウが広ければ広いほど入力は簡単になりますが、逆に意図しない技が暴発するリスクも高まります。
上級者は、このウィンドウの限界を知り尽くしており、あえてゆっくり入力することで相手の行動を見てから技を出す「ディレイ入力」などの技術を駆使します。
4. デバイス別「236P」入力の物理学と人間工学
「236P」という論理的なコマンドは、使用する入力デバイス(コントローラー)によって、まったく異なる物理的動作を要求します。
ここでは、代表的な3つのデバイスにおける入力のメカニズムと、それぞれの長所・短所を分析します。
4.1 ゲームパッド(十字キー・D-Pad)
家庭用ゲーム機の標準コントローラーを使用する場合です。現在、最も多くのプレイヤーが使用しているデバイスです。
- 物理的動作:親指の「腹」全体を使います。「下キー」を押し込み、指の圧力を維持したまま、関節を軸にして指先を「右キー」の方へロール(回転)させます。この際、親指の接地面が「下」→「下と右の中間」→「右」と移動していくことで、内部の接点が順次オンになります。
- 技術的課題:多くの初心者が陥るミスは、指を「スライド」ではなく「タップ」してしまうことです。「下」を押して、一度指を離してから「右」を押すと、間の「3(斜め)」が入力されず、コマンドが途切れてしまいます。あくまで「擦る(こする)」ように、滑らかに圧力を移動させるのがコツです。
- 物理的制約:長時間のプレイでは親指の皮膚に摩擦熱や圧力がかかり、痛み(いわゆる「格ゲー指」)が生じやすいという欠点があります。また、パッドの品質によっては斜め入力の感度が悪く、意識して強く押し込まないと認識されない場合があります。
4.2 アーケードコントローラー(Arcade Stick)
ゲームセンターの筐体と同じ、レバーとボタンを使用するデバイスです。
手首や腕全体の動きを使うため、直感的な操作感が得られます。
- 物理的動作:レバーの入力は、内部のマイクロスイッチを物理的に押すことで行われます。「ワイン持ち」や「かぶせ持ち」など、持ち方は様々ですが、基本原理は同じです。
- レバーを真下(2)に倒し、スイッチの「カチッ」という感触(クリック感)を確認します。
- レバーの根元にあるガイド(四角形や八角形の枠)の縁に沿って、レバーを右下(3)へ滑らせます。
- そのままガイドに沿って右(6)まで運びます。
- ガイドゲートの重要性:日本製のレバー(三和電子製など)の多くは「四角ガイド」を採用しています。四角ガイドの場合、四隅(コーナー)が明確に存在し、右下の角にレバーが入ると物理的に止まります。この「角(3の方向)」をしっかり感じ取ることが、正確な236入力の秘訣です。「下に入れて、角に当てて、前に出す」という3ステップの意識が有効です。
- 技術的洞察:腕全体を振り回すのではなく、手首を台に固定し、指先の繊細な動きでレバーを制御する方が、素早く正確な入力が可能です。
4.3 レバーレスコントローラー(Hitbox等)/ キーボード
近年、プロシーンを中心に急速に普及しているのが、レバーを廃止し、すべてをボタンで操作するデバイスです。PCのキーボード操作もこのカテゴリに含まれます。
- 物理的動作:236入力は、ピアノの運指やタイピングに似ています。左手で移動を担当する場合(Hitbox標準配置)、指の役割は以下のようになります。
- 薬指:左(4)
- 中指:下(2)
- 人差し指:右(6)
- 親指:上(8 / ジャンプ)
- 中指で「下(2)」を押す。
- 中指を押したまま、人差し指で「右(6)」を押す。
- この瞬間、内部的には「下」と「右」が同時に押されているため、「斜め右下(3)」が出力されます(2 + 6 = 3)。
- 中指を離す。
- 人差し指の「右(6)」だけが残り、入力が完了します。
- 右手でパンチボタンを押す。
- SOCD(Simultaneous Opposite Cardinal Directions)の優位性:レバーレスコントローラーは、物理的な移動距離がゼロであるため、理論上最速の入力が可能です。また、「SOCDクリーナー」という機能により、反対方向の同時押し(左+右など)が特定の結果(ニュートラルなど)になるよう制御されています。これを活用したショートカット入力も存在しますが、基本の「中指を押して、人差し指を足して、中指を離す」という動作が最も安定し、高速です。
5. 初心者が直面する技術的障壁とその解決策
「コマンド表通りに入力しているはずなのに技が出ない」、あるいは「波動拳を出したいのに昇龍拳が出てしまう」。
これらは初心者が必ず直面する壁であり、多くのプレイヤーがここで挫折してしまいます。
リサーチデータに基づき、これらの現象の原因を論理的に分析し、具体的な解決策を提示します。
5.1 障壁1:入力速度とリズムの誤解
初心者の多くは、「格闘ゲームは反射神経とスピードのゲームである」という先入観から、コマンドを「速く入力しなければならない」という強迫観念に駆られています。
しかし、実際には「速さ」よりも「正確なリズム」が重要です。
- 現象:焦って入力するため、レバーがガイドの縁を滑りきらず、「2」から直接「6」へ飛んでしまったり(斜め抜け)、最後の「6」が入る前にパンチボタンを押してしまったりします(「23+P」になり、しゃがみパンチが暴発する)。
- 対策:トレーニングモードの「入力履歴表示(Input Display)」機能を必ずオンにしてください。そして、スローモーションのように極端にゆっくりと「2、3、6、パンチ」と入力してみましょう。多くのゲームでは、プレイヤーが想像するよりもはるかに遅い入力でも技は成立します。「イチ、ニ、サン」という一定のリズムを刻む練習を行うことで、脳と指の協調性を高めることができます。スピードは、正確な反復練習の結果として自然についてくるものです。
5.2 障壁2:ボタン入力のタイミング(早すぎる問題)
非常に頻繁に見られるミスの一つが、レバーが完全に「前(6)」の方向に到達する前に、攻撃ボタンを押してしまう現象です。
- メカニズム:人間の神経伝達において、単純な「ボタンを押す」という動作は、「レバーを複雑に動かす」動作よりも高速に実行されます。そのため、脳内で「波動拳を出そう」と指令を出した時、左手のレバー操作が完了する(2→3→6と動く)よりも先に、右手がパンチボタンを押してしまうのです。結果として、ゲーム側は「23+P」あるいは「2+P」と認識し、しゃがみ攻撃や特殊技を発生させます。
- 解決策:意識的に「レバーを入れ終わってから、一呼吸置いてボタンを押す」くらいのタイミングで練習してください。感覚としては「236……P」という一瞬の「溜め」を作るイメージです。また、レバーレスコントローラーやキーボードの場合は、ボタンを離す動作(ネガティブエッジ)を利用してタイミングを調整することも有効です。
5.3 障壁3:悪名高き「昇龍拳化け(DP Misinput)」
「前に歩いて距離を詰め、そこから波動拳を撃とうとしたら、なぜか昇龍拳が出てしまい、隙を晒して負けた」という現象です。
これは初心者だけでなく、上級者でもプレッシャーのかかる場面で発生しうるミスです。
- 論理的解析:この現象は、ゲームの入力解釈ロジックの仕様に起因します。
- プレイヤーが前に歩く = 6 (Forward)
- プレイヤーが波動拳を入力する = 236 (Down, Down-Forward, Forward)
- バッファ内の合計入力履歴 = 6236
- 技術的解決策(テクニック):この問題を回避するためには、入力履歴から最初の「6」の影響を消す、あるいは無効化する工夫が必要です。
- ハーフサークル入力法:「41236(後ろ半回転)」を入力することで、最初の「6(前歩き)」の履歴を物理的に遠ざけ、波動拳を強制的に出す技術です。後ろ方向を経由することで「623」の形が崩れます。
- ニュートラル経由法:歩いた後、一瞬だけレバーをニュートラル(5)に戻し、微細な間(数フレーム)を置いてから236を入力します。これにより、前の「6」と後の「236」が別のコマンドとして処理されます。
- 4(後ろ)入れキャンセル:歩き(6)から一瞬後ろ(4)に入れてガードの構えを見せてから236を入力する方法です。これは防御面でも安全なテクニックです。
6. 主要ゲームタイトルにおける「236P」の役割比較
「236P」は共通言語ですが、その戦略的な意味合いや重要性は、プレイするゲームタイトルによって大きく異なります。
ここでは主要なフランチャイズごとの特徴を比較します。
6.1 『ストリートファイター』シリーズ(Street Fighter)
このシリーズにおいて、236P(波動拳)は「飛ばせて落とす」という戦術の根幹を成す最も重要な技です。
- 役割:画面上に弾を置くことで相手の動きを制限し、ジャンプを誘発して対空技で迎撃するための「空間支配」ツールです。
- 入力の特徴:『SF6』では、モダン操作(ワンボタン必殺技)が導入されましたが、クラシック操作における236P入力は、ダメージ補正がない、強度(弱・中・強)の使い分けができるといったメリットがあり、依然として習得必須の技術です。
- 課題:前述の「歩き波動」による昇龍拳化けが最も発生しやすいゲーム性を持っています。
6.2 『ギルティギア』『BLAZBLUE』シリーズ(Anime Fighters)
アークシステムワークスが手がけるこれらのゲームでは、ゲームスピードが極めて速く、236Pはより攻撃的な用途で使われます。
- 役割:コンボの中継パーツ(Combo Filler)や、相手を画面端に押し込んだ際の「固め(Blockstring)」の締めとして多用されます。また、空中ダッシュなどの高速移動と組み合わせる必要があり、入力スピードがよりシビアに求められます。
- 入力の特徴:コマンドとしての「236」だけでなく、覚醒必殺技としての「236236」や「632146」など、より長い複合入力の基礎ブロックとして機能します。テンキー表記が標準化した震源地でもあります。
6.3 『鉄拳』シリーズ(Tekken 3D Fighters)
3D格闘ゲームである鉄拳では、2Dゲームとは全く異なる意味を持ちます。
- 役割:鉄拳には基本的に「飛び道具」という概念が希薄です。ここでの236入力は、「風神ステップ(Crouch Dash)」と呼ばれる特殊な移動動作や、ポール・フェニックスの「崩拳(236RP)」のような、踏み込んで放つ強力な打撃技のコマンドとして機能します。
- 入力の特徴:2Dゲームのような「回転」ではなく、「前、ニュートラル、下、斜め下(6n23)」といった、一度ニュートラルを経由するリズム重視の入力が求められることが多く、これを「風神拳コマンド」と区別して呼ぶこともあります。
6.4 『ドラゴンボール ファイターズ』(DBFZ)
このゲームは、入力の簡略化をコンセプトの一つとしており、236Pの役割が非常に明確化されています。
- 役割:ほぼ全てのキャラクターにおいて、「236+攻撃ボタン」は何らかの必殺技、「236+特殊ボタン」は超必殺技というように統一されています。複雑なコマンドを覚えなくても、「236さえできれば全キャラ動かせる」というアクセシビリティを重視した設計です。
- 入力の特徴:入力判定が非常に緩く設計されており、初心者でも容易に技が出せるようになっています。
6.5 『THE KING OF FIGHTERS』(KOF)
SNKの代表作であるKOFシリーズは、独特の入力文化を持っています。
- 役割:ジャンプの種類が多く(小ジャンプ、中ジャンプ等)、動きが激しいため、236Pも牽制よりはコンボやラッシュの手段として使われます。
- 入力の特徴:「ボタン押しっぱなし」による入力保持など、独自の入力テクニックが存在します。また、「2369」と入力することで低空で空中必殺技を出すテクニックが必須となる場面が多く、高度なレバー操作技術が要求されます。
7. 上級者への道:236Pの応用技術論
基本をマスターした後に待っている、より高度な技術論について触れます。これらは「知っているだけで差がつく」知識です。
7.1 バッファリング(Buffering)と「仕込み」
技の硬直中や、ダウンからの起き上がりモーション中に、あらかじめ236コマンドを入力しておく技術です。
例えば、通常技(中パンチなど)がヒットした瞬間に236Pが完成するように入力することで、隙間なく必殺技を繋げる「キャンセル」が可能になります。
さらに、相手の攻撃が空振りした時だけ技が出るようにタイミングを調整する「仕込み(Option Select)」といった高度な技術にも応用されます。
これは、人間の反射神経の限界を超えるための必須テクニックです。
7.2 スーパーキャンセルのための「236236」短縮入力
多くのゲームで超必殺技(スーパーアーツ)は「236236+P」などの入力(真空波動拳コマンド)になっています11。これを素早く入力するには、
「236(一回目)→即座に236(二回目)」
と入力する必要があります。
ここでのコツは、「1回目の236で必殺技を出し、その必殺技のモーション中に2回目の236を入力してボタンを押す」という分割入力の考え方です。
『ストリートファイター』などでは、
「236P(波動拳発射)→ 即座に236P(スーパーアーツ発動)」
というキャンセルルートが存在します。
この際、最初の波動拳の「236」入力を、スーパーアーツの「236236」の1回目の入力として流用できる場合があります。
つまり、
「236P → 236P」
と入力するだけで、波動拳から真空波動拳へ繋がるのです。
これを理解していると、入力の手間が半分になり、成功率が劇的に向上します。
7.3 位置入れ替え(Side Switch)への適応
格闘ゲーム最大の難関の一つが、「2P側(画面右側)」での操作です。
キャラクターの位置が入れ替わると、入力すべきコマンドは左右反転し、「214P(逆波動)」となります。
人間の手首の構造上、外側にひねる動き(1P側の236)と内側に巻き込む動き(2P側の214)では、使う筋肉や感覚が異なります。
多くのプレイヤーが「1P側なら出るのに2P側だと出ない」という苦悩を抱えています。
対策:トレーニングモードでは、必ず「位置入れ替え」機能を使い、左右両方のサイドで均等に練習を行う必要があります。
上級者は、自分がどちらのサイドにいても同じ精度でコマンドが出せるよう、脳内の座標系を瞬時に切り替える訓練を積んでいます。
8. 結論:236Pが示す「身体性」の未来
「236P」とは、単なるゲームの操作コマンドを超えた、対戦格闘ゲームという文化圏における基礎教養(リテラシー)であり、プレイヤーの身体的スキルの結晶です。
- 言語的には:世界中のプレイヤーを繋ぐ共通言語であり、数字という普遍的な記号によって「言葉の壁」を破壊しました。
- 技術的には:入力バッファ、フレームデータ、優先順位ロジックといったゲームエンジンの深層と、プレイヤーの意思を繋ぐインターフェースです。
- 文化的には:『ストリートファイターII』から30年以上続く伝統であり、この操作を習得することは、格闘ゲームコミュニティへの「入会儀礼」のような意味を持っています。
近年では『ストリートファイター6』のモダン操作のように、ワンボタンで必殺技が出せるシステムも普及し始めています。
しかし、コマンド入力には「技の強度を使い分ける」「意図しない暴発を防ぐ」「入力そのものの楽しさ(達成感)」といった、デジタルな効率性だけでは語れないアナログな価値が残されています。
本レポートが、皆様の疑問を解消し、より深い格闘ゲームの理解へと繋がる一助となれば幸いです。
焦らず、リズム良く、正確に。
まずはトレーニングモードで、美しい「236」の軌跡を描くことから始めてみてください。
その指先の動き一つ一つが、歴史ある格闘ゲームの系譜とあなたを繋いでいるのです。
