序章:デジタル世界における「攻撃」の概念化

オンラインゲームという仮想空間において、プレイヤーは自らの分身となるアバターを通じ、様々な役割を演じます。
その中でも、最も多くのプレイヤーを魅了し、また最も激しい競争の渦中にある役割こそが、本記事の主題である「アタッカー」です。
「アタッカー」とは、文字通り攻撃(Attack)を主たる任務とする存在ですが、その実態はゲームジャンルやタイトルごとに極めて多様であり、単に「敵を殴る役割」という言葉だけでは説明しきれない深淵なメカニズムと哲学を内包しています。
本記事では、MMORPG、MOBA、FPS、そしてTRPGに至るまで、収集された膨大な資料に基づき、「アタッカー」という用語の定義、機能的役割、求められる技能、そしてプレイヤー心理に至るまで、徹底的に解説を行います。
なお、本稿では読者の皆様への分かりやすさと親しみやすさを重視して記述を進めさせていただきます。
専門的な内容を含みますが、あくまで平易な語り口で、アタッカーという存在の深層へご案内いたします。
第1章:アタッカーの定義論と呼称の変遷
まず初めに、「アタッカー」という言葉が何を指し、どのように使い分けられているのか、その定義と言語的な背景を整理することから始めましょう。
1.1 「アタッカー」の基本定義
最も広義において、アタッカーとは「敵対的キャラクターやオブジェクトに対してダメージを与え、その耐久値(HP)を減少させることで無力化・排除することを主目的として設計されたキャラクター、あるいは役割」を指します。
ゲームデザインの観点から見れば、アタッカーは「進行のトリガー」です。
敵を倒さなければ次のエリアに進めない、ストーリーが展開しないというゲーム構造において、アタッカーは障害を排除し、時間を前に進めるためのエンジンの役割を果たしています。
1.2 類語との比較とニュアンスの違い
「アタッカー」という呼称は日本国内で広く使われていますが、文脈によっては別の用語が用いられることがあり、それぞれに微細なニュアンスの違いが含まれています。
これらを理解することは、コミュニティでのコミュニケーションにおいて非常に重要です。
1.2.1 DPS(Damage Per Second)
特にMMORPG(『ファイナルファンタジーXIV(FF14)』や『World of Warcraft』など)の界隈では、アタッカーのことを「DPS」と呼ぶことが一般的です。
本来、DPSとは「Damage Per Second(1秒間あたりのダメージ量)」を示す単位であり、「この武器のDPSは高い」といったように性能評価の指標として使われていました。
しかし、効率的な攻略が求められるゲーム文化の中で、「いかに高いDPSを出すか」がアタッカーの至上命題となった結果、役割そのものを指して「DPS」と呼ぶ習慣が定着しました。
「アタッカー募集」と言うよりも「DPS募集」と言った方が、より機能的な側面(火力を出す装置としての役割)が強調される傾向にあります。
1.2.2 キャリー(Carry)
主にMOBA(『League of Legends』など)や一部のチーム制シューター、あるいは『原神』のようなキャラクター切り替え型アクションゲームで使用される用語です。
「Carry(運ぶ)」という動詞に由来し、「チームを勝利へ運ぶ存在」「試合を決定づける主役」という意味合いを持ちます。
序盤は弱くても、育成が進むと圧倒的な強さを発揮し、一人で敵チームを壊滅させるようなポテンシャルを持つキャラクターを指すことが多いです。
アタッカーの中でも、特に「チームの勝敗責任を背負うエース」というニュアンスが強い言葉です。
1.2.3 ダメージディーラー(Damage Dealer)
TRPG(テーブルトークRPG)や、海外のMMORPGコミュニティで古くから使われている、由緒正しい表現です。
「ダメージを配る者」という直訳の通り、役割を客観的に記述した言葉です。
アタッカーやDPSという言葉が持つ「攻撃的な」「効率重視の」というニュアンスに比べ、より中立的でシステム的な響きを持ちます。
『ダブルクロス』のようなTRPGシステムにおいて、キャラクターのビルド(構成)を説明する際によく用いられます。
1.2.4 ストライカー、オフェンスなど
ゲームタイトル固有の呼び方も存在します。
例えば『Let It Die』においては「ストライカー」と「アタッカー」が別のクラスとして定義されており、HPや筋力といったステータス配分に明確な差が設けられています。
また、『Overwatch』の初期では「オフェンス」というロール名が使われていましたが、後に「ダメージ」という名称に統合されました。
1.3 役割分担「ロールの三位一体」における位置づけ
アタッカーの存在意義を理解するためには、RPGにおける黄金律とも言える「ロールの三位一体(Holy Trinity)」という概念を避けて通ることはできません。
これは、パーティーメンバーを以下の3つの役割に分割し、相互依存させるシステムです。
| ロール | 役割の概要 | アタッカーとの相互依存関係 |
| タンク(Tank) | 敵の攻撃を一手に引き受け(ヘイト管理)、味方を守る「盾」。高い防御力とHPを持つ。 | アタッカーが攻撃に専念できるよう、敵を固定してくれる存在。タンクがいなければアタッカーは即座に倒される。 |
| ヒーラー(Healer) | 味方のHPを回復し、状態異常を解除する「癒やし手」。戦闘の継続性を担保する。 | アタッカーが(全体攻撃などで)受けたダメージを回復し、攻撃を続けられる状態を維持してくれる存在。 |
| アタッカー(DPS) | 敵にダメージを与え、殲滅する「矛」。防御や回復能力は低いことが多い。 | タンクとヒーラーが支えている戦線が崩壊する前に、敵を倒し切る責任を持つ。戦闘時間の短縮を担当。 |
この構造において、アタッカーは「時間」との戦いを担当しています。
ヒーラーのMP(魔力)やタンクの防御バフが尽きる前に敵を倒さなければ、パーティーは全滅(ワイプ)します。
つまり、アタッカーの優秀さは、どれだけ早く戦闘を終わらせ、味方のリソース消費を抑えられたかによって測られるのです。
第2章:アタッカーの分類学 — 攻撃手段による多様性
「アタッカー」と一口に言っても、その戦い方は千差万別です。
敵に密着して剣を振るう者もいれば、遠距離から魔法を放つ者もいます。
ここでは、主な分類基準とその特徴について詳しく解説します。
2.1 距離による分類:メレーとレンジ
最も基本的かつ戦術に大きな影響を与えるのが、敵との交戦距離(レンジ)です。
2.1.1 近接物理DPS(メレー / Melee DPS)
剣、斧、槍、格闘などを駆使し、敵に肉薄(ゼロ距離)して戦うスタイルです。
- 代表的なジョブ: 『FF14』のモンク、竜騎士、侍、忍者、リーパーなど。『Let It Die』のストライカーもここに含まれます。
- 特徴: 一般的に、遠隔職よりも基礎的な攻撃力やHPが高めに設定されています。これは、敵の足元で戦うため範囲攻撃に巻き込まれやすく、被弾リスクが高いことへの見返り(リスク・リターン)です。
- 技術的要件: 敵の攻撃を避けつつ攻撃し続けるために、繊細な位置取りが求められます。また、『FF14』のように「敵の背面から攻撃するとダメージアップ」といった方向指定の概念がある場合、常に動き回りながら戦う必要があります。
2.1.2 遠隔物理DPS(レンジ / Physical Ranged DPS)
弓、銃、投擲武器などを使用し、離れた場所から物理ダメージを与えるスタイルです。
- 代表的なジョブ: 『FF14』の吟遊詩人、機工士、踊り子など。『Apex Legends』や『Valorant』のキャラクターたちも、基本的にはこの性質を持ちます。
- 特徴: 敵に近づく必要がないため、安全圏から攻撃でき、敵の範囲攻撃も見てから回避しやすいという利点があります。また、攻撃しながら移動できる(引き撃ちができる)能力を持つことが多く、機動力に優れます。
- 支援の役割: 火力そのものはメレーやキャスターに比べてやや控えめに調整される傾向がありますが、その分、味方全員の攻撃力を上げる歌を歌ったり、回復を補助したりといった「シナジー(相乗効果)」を生む支援スキルを持っていることが多いのが特徴です。
2.1.3 遠隔魔法DPS(キャスター / Magical Ranged DPS)
魔法を行使して攻撃するスタイルです。
- 代表的なジョブ: 『FF14』の黒魔道士、召喚士、赤魔道士など。
- 特徴: 多くの魔法には「詠唱時間(キャストタイム)」が存在し、魔法を放つためには数秒間その場に立ち止まる必要があります。これは移動しながら戦えないという大きな制約ですが、その代償として一撃の威力は極めて高く設定されています。「固定砲台」としての立ち回りが求められ、敵の攻撃が来ない安全地帯を予測する能力が問われます。
2.2 ダメージ出力の性質による分類
ダメージの出方(タイムライン)によっても、アタッカーの適性は異なります。
2.2.1 バースト型(Burst Damage)
短時間に爆発的な大ダメージを叩き出すタイプです。
- 概要: 強力な必殺技(クールタイムが長いスキル)に依存しており、「ここぞ」という瞬間の火力は最強ですが、スキルを使い切った後は火力が落ちます。
- 適性: 『ポケモンユナイト』のアタック型のように、敵を確実に倒し切る(キルを取り切る)能力が高いです。また、ボスの特定のフェーズを一瞬で終わらせたい場合や、対人戦(PVP)で相手に回復の隙を与えずに倒す場合に重宝されます。
- 心理: 「特大ダメージの数字」が出るため、プレイしていて爽快感が強く、花形になりやすいタイプです。
2.2.2 継続ダメージ型(Sustain DPS / DoT型)
時間はかかるものの、安定してダメージを与え続けるタイプです。
- 概要: 毒、出血、火傷などの「DoT(Damage over Time:時間経過ダメージ)」を付与したり、短い間隔で中威力の攻撃を絶え間なく繰り返すスタイルです。
- 適性: HPが膨大なレイドボスなど、戦闘時間が長引く場面で真価を発揮します。総ダメージ量(Total Damage)ではバースト型を上回ることも珍しくありません。『FF14』の吟遊詩人のように、複数のDoTを維持管理することがプレイスタイルの核となります。
- TRPGでの例: 『ダブルクロス』における邪毒ビルドのように、一度付与すれば行動権を消費せずに自動でダメージが入るため、アクション効率が良いという評価を受けます。
2.3 ゲームシステム上の特殊分類
さらに、特定のゲームシステムに特化した分類もあります。
2.3.1 ガラスの大砲(Glass Cannon)
攻撃力に特化するあまり、防御力が極端に低いキャラクターを指す用語です。
海外のコミュニティで頻繁に使われる表現で、まさに「ガラス細工のように壊れやすいが、大砲のような威力を持つ」ことを意味します。
『Let It Die』のアタッカークラスがHPを犠牲にしている点や、『ポケモンユナイト』のアタック型が低耐久である点がこれに該当します。
この設計は、プレイヤーに「被弾せずに立ち回る技術」を要求するハイリスク・ハイリターンなものです。
2.3.2 オンフィールド vs オフフィールド
『原神』のようなキャラクターチェンジシステムを持つゲームにおける分類です。
- メインアタッカー(オンフィールド): 実際に画面上に登場して戦う時間が長いキャラクター。「キャリー」とも呼ばれます。
- サブアタッカー(オフフィールド): スキルを設置した後すぐに控えに戻るが、裏でダメージを与え続けたり、メインアタッカーの攻撃に合わせて追撃を行ったりするキャラクター。この分類では、単体での強さよりも、チーム全体での元素反応(シナジー)をどう最大化するかが重要視されます。
第3章:アタッカーに求められる核心的技能と戦術
高い攻撃力を持つキャラクターを使えば、誰でも優れたアタッカーになれるわけではありません。
数値を理論通り、あるいはそれ以上に引き出すためには、高度なプレイヤースキルと戦術理解が必要です。
3.1 ヘイト管理(Aggro Management)
アタッカーにとって最大の脅威は、敵モンスターそのものではなく、「敵に狙われること」そのものです。
RPGの戦闘AIには「ヘイト(敵視)」という概念があり、基本的には「最も脅威となる行動をしたプレイヤー」を攻撃対象として選びます。
- アタッカーのジレンマ: アタッカーが全力で攻撃し、タンクが稼いでいるヘイト量を超えてしまうと、敵はアタッカーの方を向き、攻撃してきます。これを「タゲが跳ねる(飛ぶ)」と言います。
- 結果: アタッカーは防御力が低いため(ガラスの大砲)、数発殴られただけで戦闘不能になります。
- 熟練の技: 優れたアタッカーは、タンクのヘイト稼ぎ具合を常に監視し、ギリギリ跳ねないラインで火力を寸止めするか、あるいはヘイトを抑制するスキル(敵視低下スキル)を適切なタイミングで使用します。この「見えないパラメータの管理」こそが、初心者と上級者を分ける壁の一つです。
3.2 カイトとポジショニング(Kiting & Positioning)
特に遠隔アタッカーにおいて必須となる技術が「カイト(Kite / Kiting)」です。
- 語源: 凧(カイト)揚げのように、敵との一定の距離を保ちながら引っ張る動きから来ています。
- メカニズム: 攻撃を一発撃つたびに少し後ろへ下がる、という動作を繰り返すことで、近接攻撃しかできない敵に対して、一方的にダメージを与え続けることができます。別名「引き撃ち」とも呼ばれます。
- MOBAでの重要性: 『League of Legends』などのMOBAでは、この動作を高速かつ正確に行うことが、生存率とダメージ効率に直結します。「オーブウォーキング」とも呼ばれるこの技術は、マウス操作の精密さを極限まで要求します。
- 空間支配: FPSや『ポケモンユナイト』においては、単に逃げるだけでなく、「自分は敵を撃てるが、敵からは遮蔽物で射線が通らない位置」や「味方のタンクが守ってくれる範囲内」を見つけ出し、そこに陣取る能力(ポジショニング)が重要です。
3.3 スキル回し(Rotation)と最適化
MMORPGのアタッカーにとって、戦闘は数学の証明問題のようなものです。
- ローテーション: 開発者が設計したスキルの威力やクールタイム(再使用時間)に基づき、「どの順番でボタンを押せば、理論上最大のダメージが出るか」という最適解が存在します。これを「スキル回し(ローテーション)」と呼びます。
- GCDの支配: 多くのMMOには「GCD(Global Cooldown)」という、スキル使用後の硬直時間が存在します。アタッカーは、このGCDを一度も止めず、常に何らかのアクションを実行し続ける(Keep GCD Rolling)ことが求められます。
- アドリブ力: 実際の戦闘では、敵が消えたり、回避行動を強制されたりして、予定していたローテーションが崩れることがあります。この時、瞬時に計算を修正し、リカバリーする判断力が問われます。
3.4 フォーカス・ファイヤ(Focus Fire)
チーム戦、特に『Overwatch』のようなヒーローシューターにおいて重要なのが「フォーカス・ファイヤ(集中攻撃)」です。
- 理論: 敵チームにヒーラーがいる場合、中途半端にダメージを散らしてもすぐに回復されてしまいます。しかし、チーム全員で一人の敵を同時に攻撃すれば、回復が追いつく前にその敵を倒す(瞬殺する)ことができます。
- 意思疎通: アタッカーは「あの敵を狙う!」という意思を味方と共有する必要があります。声に出して連携を取る(ボイスチャット)か、タンクが攻撃している敵を自然に狙う阿吽の呼吸が求められます。
3.5 ピーリングへの理解(Peeling Awareness)
「ピーリング(Peel)」とは、味方に張り付いた敵を引き剥がして守る行為を指します。
本来はタンクやサポートの役割ですが、アタッカーもこの概念を理解しておく必要があります。
- 自衛的ピーリング: 自分が敵に狙われた時、パニックになって味方から遠ざかるのではなく、味方のタンクや、スタン攻撃(CC)を持つ味方の方向へ逃げることで、味方が自分を助けやすい状況を作る技術です。これは「味方にピールしてもらうための立ち回り」と言えます。
第4章:ジャンル別に見るアタッカーの生態系
ゲームのジャンルが変われば、アタッカーに期待される役割も変化します。
ここでは主要なジャンルごとの特徴を深掘りします。
4.1 MMORPG(『FF14』『WoW』など)
MMORPGの世界において、アタッカーは「規律の遂行者」です。
- DPSチェック: レイドボスなどの高難易度コンテンツには「時間切れ」や「DPSチェック(一定時間内に一定ダメージを与えないと即死するギミック)」が設定されています。アタッカーが十分な火力を出せなければ、どれだけタンクが耐え、ヒーラーが回復しても、強制的に敗北となります。
- ギミック処理係: 火力を出しながらも、アタッカーは身軽であるため、戦闘中に発生する特殊なギミック(スイッチを踏む、爆弾を運ぶなど)の処理を任されることが多くあります。「攻撃しながら仕事をする」マルチタスク能力が必須です。
4.2 MOBA(『LoL』『Dota 2』『ポケモンユナイト』など)
MOBAにおけるアタッカー(キャリー)は「投資対象」であり「王」です。
- 成長曲線: 試合開始直後のアタッカーは非常に弱く、敵の攻撃ですぐに死んでしまいます。しかし、ミニオン(雑魚敵)を倒してお金と経験値を稼ぐ(ファームする)ことで、後半には神のような強さを手に入れます。
- チームの献身: サポート役のプレイヤーは、自分が稼ぐべき経験値をアタッカーに譲り、アタッカーを守るために身を呈します。アタッカーはこの献身に応え、最終的にチームを勝利に導く義務(ノブレス・オブリージュ)を負います。
- ペンタキルの重み: アタッカーが敵チーム5人全員を倒す「ペンタキル」は、このジャンルにおける最大の名誉であり、プレイヤーを熱狂させる瞬間です。
4.3 FPS / タクティカルシューター(『Valorant』『CS:GO』など)
ここでは「アタッカー」の意味が二重になります。
- 攻撃側チーム(Attacker Side): 爆破ルールなどでは、爆弾を設置する側のチーム全体を「アタッカー」と呼びます。この文脈では、5人のプレイヤー全員がアタッカーであり、いかにして防衛側の強固な守りを崩すかという戦略的思考が求められます。数的有利を作り、エリアを制圧するマクロな視点が必要です。
- ロールとしてのアタッカー: 『Overwatch』のダメージロールのように、キルを取ることを専門とする役割もあります。ここでは、敵のタンクのバリアを割る、裏取りをして敵のヒーラーを暗殺する、といった具体的な戦果が求められます。
4.4 アクションRPG / ソーシャルゲーム(『原神』など)
このジャンルでは「数値の最大化」と「コレクション性」が結びついています。
- 属性と反応: アタッカーの強さは、単体のステータスだけでなく、他のキャラクターとの属性相性(元素反応)によって決まります。炎属性のアタッカーを活かすために、水属性のサポーターを入れるといった「チームビルディング(編成)」の知識が、プレイヤースキルと同じくらい重要になります。
- インフレとの戦い: 運営型のゲームでは、次々と新しい強力なアタッカーが実装されます。プレイヤーは常に最新のトレンド(メタ)を追いかけ、リソースを投資し続ける必要があります。
第5章:アタッカーの心理学 — なぜ人は攻撃したがるのか?
オンラインゲームにおいてアタッカーの人口比率は常に高く、マッチング待ち時間が長くなる傾向にあります。
なぜこれほどまでに多くの人がアタッカーを選びたがるのでしょうか。
その心理的背景に迫ります。
5.1 「効力感」と「可視化された成果」
アタッカーの最大の魅力は、自分の行動の結果が明確な数字(ダメージ量)としてフィードバックされる点にあります。
- 即時報酬: ボタンを押すと敵のHPが減る、大きなクリティカルダメージの数字が飛び出す。これらは脳に対する強力な報酬刺激となり、「自分が状況をコントロールしている」という強い自己効力感(Self-efficacy)を与えます。
- 主役願望: 多くの物語において、敵を倒すのは主人公の役割です。アタッカーを選ぶことは、物語の主役になりたいという潜在的な願望を満たす行為でもあります。
5.2 「責任」の所在とプレッシャー
一方で、アタッカーには独特のストレスもあります。
- DPSメーターの監視: 多くのPCゲームでは、外部ツールによって個人のDPSが数値化され、可視化されてしまいます。「装備はいいのにダメージが出ていない」という事実は客観的に露呈し、他者からの批判や、自分自身への失望(劣等感)に繋がります。
- タンク・ヒーラーへの依存: アタッカーは一人では生き残れません。自分が死んだとき、「ヒーラーの回復が遅かったのか?」「タンクがヘイトを取らなかったのか?」「自分の立ち位置が悪かったのか?」という原因帰属を巡って、認知的不協和が発生しやすく、これがチーム内の不和(トキシシティ)の原因になることもあります。
5.3 営業職との類似性
興味深い視点として、アタッカーの役割をビジネスにおける「営業職」に例える言説があります。
- 類似点: 開発や事務(タンク・ヒーラー)が整えた商品や環境を土台にして、最終的に顧客(敵)から契約(勝利)をもぎ取る役割です。
- やりがい: 結果が数字でシビアに評価される厳しさはありますが、チームの成果を決定づける瞬間に立ち会えるという点で、代えがたい「やりがい」とアドレナリンを感じられるポジションです。このヒリヒリするような緊張感を求めて、プレイヤーはアタッカーを選び続けます。
第6章:アタッカーを取り巻く社会問題と未来
最後に、アタッカーという役割が抱えるコミュニティ内の課題と、今後の展望について触れておきましょう。
6.1 「DPSシャキ待ち」問題
MMORPGにおいて、アタッカーは人口過多であるため、コンテンツに参加するためのマッチング待ち時間(通称:シャキ待ち)が極端に長くなる傾向があります。
- 構造的不均衡: タンク1:ヒーラー1:DPS2という構成が一般的ですが、プレイヤー人口比率はそれ以上にDPSに偏っています。
- 運営の対策: タンクやヒーラーで参加するとボーナス報酬がもらえるシステムを導入するなど、運営側もロールの人口バランス是正に腐心していますが、アタッカー人気の根本的な解決には至っていません。これは「攻撃することの快感」が人間の本能に根ざしていることを示唆しています。
6.2 ツールによる選別とハラスメント
DPSメーターなどの外部ツールの存在は、効率的な攻略を助ける一方で、「火力ハラスメント」を生む温床ともなっています。
「〇〇(ジョブ名)さん、DPS低いので抜けてください」といった冷徹な排除が行われることもあり、コミュニティの健全性をどう保つかは、開発者とプレイヤー双方にとっての永続的な課題です。
6.3 AIとの共存、ハイブリッド化
近年では、AI(NPC)とパーティーを組んでダンジョンを攻略できるシステム(FF14のフェイスシステムなど)が増えています。
これにより、他人の目を気にせずアタッカーの練習ができる環境が整いつつあります。
また、純粋なアタッカーではなく、「回復もできるアタッカー」「タンク並みに硬いアタッカー」といったハイブリッドなクラスも増えており、ロールの境界線は徐々に曖昧になりつつあります。
しかし、どれほど時代が変わっても、「敵を倒す爽快感」を求めるプレイヤーがいる限り、アタッカーという役割の本質は変わらないでしょう。
結論:アタッカーとは「意思の矢」である
以上、アタッカーという役割について、多角的な視点から分析を行ってきました。
アタッカーとは、単にダメージを与えるだけの装置ではありません。
彼らは、タンクが作り出した「空間」と、ヒーラーが維持した「時間」というリソースを、最も効率的な方法で「勝利」という結果に変換する変換器です。
彼らが放つ一撃一撃には、チーム全員の生存への願いと、クリアへの渇望が込められています。
「ガラスの大砲」と呼ばれるその脆さは、裏を返せば「仲間を信頼して背中を預けている証」でもあります。
敵の猛攻の中で、倒れるリスクを冒してでも前に踏み込み、最後の一撃を叩き込む。
その勇気と決断力こそが、アタッカーをアタッカーたらしめている真の資質なのです。
これからアタッカーを目指す方、あるいは既にその道を歩んでいる方が、本記事を通じて自らの役割の深さと尊さを再認識し、より充実したゲームライフを送る一助となれば、筆者としてこれに勝る喜びはありません。
巻末付録:アタッカー用語集
読者の皆様の理解を助けるため、本文中で使用した専門用語を簡潔にまとめました。
| 用語 | 読み方 | 解説 |
| AoE | エー・オー・イー | Area of Effectの略。範囲攻撃のこと。複数の敵をまとめて攻撃する手段。 |
| DoT | ドット | Damage over Timeの略。毒や火傷など、時間の経過とともに徐々にHPを減らすダメージ。 |
| Kite | カイト | 敵に追いつかれないように、逃げながら攻撃し続ける技術。引き撃ち。 |
| Peel | ピール | 味方に張り付いた敵を妨害し、味方を助ける(剥がす)行為。 |
| Aggro / Hate | アグロ / ヘイト | 敵対心。モンスターが「誰を攻撃するか」を決めるための数値。 |
| CC | シー・シー | Crowd Controlの略。スタン、睡眠、移動不可など、敵の行動を制限する状態異常の総称。 |
| Glass Cannon | グラス・キャノン | 攻撃力は高いが、防御力が極端に低いキャラクター設計のこと。 |
| Rotation | ローテーション | スキルを使用する最適な順番。これを守ることで最大火力が発揮できる。 |
| Proc | プロック | 特定の条件下で確率的に発動する追加効果や、スキルの使用権。 |
