オンラインゲーム用語『永久機関』を徹底解説

ネットゲーム初心者

先生、『永久機関』について教えてください。

ネットゲームの達人

『永久機関』とは、消費するエネルギーよりも生産されるエネルギーの方が多く、自分の獲得できるエネルギーで自分の消費エネルギーを補える状態のことです。

ネットゲーム初心者

簡単に言うと、どんな状態ですか?

ネットゲームの達人

MPを吸収、回復できる武器やスキルを使用して、消費したMPを枯渇させることなく、スキルを連続して使用できる状態のことを指します。

永久機関とは

オンラインゲーム用語の「永久機関」とは、ゲーム内で消費するエネルギーよりも獲得できるエネルギーが上回っている状態のことを指します。これにより、消耗したエネルギーを自力で賄うことができます。

具体的には、スキル使用によるMP消費を、MP吸収や回復効果のある武器やスキルの使用でまかなうことで、MPが枯渇することなくスキルを連続で使用できる状態を指します。この状態は、エネルギーを自給自足していることから、「自家発電」と呼ばれることもあります。

永久機関とは?

    1. 永久機関とは
  1. 1. 序論:不可能なき夢のデジタル的実現
    1. 1.1 研究の背景と目的
    2. 1.2 用語の定義と適用範囲
  2. 2. 物理法則とデジタル法則の乖離:なぜゲームでは「永久」が可能なのか
    1. 2.1 熱力学の支配する現実世界
    2. 2.2 「摩擦」なきデジタル空間の特異性
    3. 2.3 コードによる法則の書き換え
  3. 3. 分類とメカニズム:ゲームにおける永久機関の類型学
    1. 3.1 コンボ型永久機関:無限ループ(Infinite Loop)
      1. 3.1.1 発生のメカニズム
      2. 3.1.2 「ソリティア」化する対戦
    2. 3.2 リソース型永久機関:自給自足と拡大再生産
      1. 3.2.1 完全自動化への道
    3. 3.3 放置型永久機関:Botとマクロの領域
      1. 3.3.1 自動狩り(Auto-Farming)
  4. 4. プレイヤー心理の深層分析:なぜ人は「無限」を渇望するのか
    1. 4.1 「効率厨」の心理学:経済的合理性への執着
      1. 4.1.1 魂に刻まれた最適化
      2. 4.1.2 協力プレイにおける軋轢
    2. 4.2 ドーパミンと報酬系のハイジャック
      1. 4.2.1 予測と報酬のサイクル
    3. 4.3 「ゲーム脳」と認知機能への影響
      1. 4.3.1 前頭前野の抑制
  5. 5. インクリメンタルゲームの台頭:永久機関のジャンル化
    1. 5.1 「プレイしないこと」への報酬
      1. 5.1.1 罪悪感なき進捗(Guilt-free Progression)
    2. 5.2 メタゲームとしての戦略性
    3. 5.3 現代人の精神安定剤(Coping Mechanism)
  6. 6. ゲームデザインと経済への影響:開発者との「いたちごっこ」
    1. 6.1 ゲーム内経済の崩壊リスク
    2. 6.2 開発者の対抗策:物理法則の強制導入
      1. 6.2.1 ナーフ(Nerf)と禁止制限
      2. 6.2.2 スタミナ制と回数制限
      3. 6.2.3 収穫逓減の法則(Diminishing Returns)
    3. 6.3 終わらない軍拡競争
  7. 7. 結論:終わらないループの先にあるもの
    1. 7.1 本研究の総括
    2. 7.2 考察:人間はなぜ「無限」に惹かれるのか
    3. 7.3 今後の展望:AIと自動化の融合

1. 序論:不可能なき夢のデジタル的実現

1.1 研究の背景と目的

人類の歴史において、「永久機関」という概念は常に魅力的な幻想として存在し続けてきました。

物理学の世界では、エネルギー保存の法則やエントロピー増大の法則という厳然たる壁が立ちはだかり、その実現は理論的に不可能であると証明されています。

しかし、現代のデジタルエンターテインメント、とりわけオンラインゲームという仮想空間においては、この「永久機関」という言葉が全く異なる意味を持ち、実在する現象として頻繁に議論の対象となっています。

本記事は、オンラインゲーム用語としての「永久機関」について、その定義、発生のメカニズム、それを追求するプレイヤーの心理構造、そしてゲーム内経済やコミュニティに与える甚大な影響を、多角的な視点から徹底的に解説することを目的としています。

なぜ物理的に不可能な事象がデジタル空間では日常的に発生するのか。

そして、なぜプレイヤーたちは開発者が意図しないこの「無限の回転」にこれほどまでに魅了されるのか。

本稿では、提供された研究資料に基づき、ゲームデザイン論、行動経済学、および認知心理学の知見を交えながら、この現象の全貌を明らかにしていきます。

1.2 用語の定義と適用範囲

まず、本研究における「永久機関」の定義を明確にする必要があります。

物理学的な定義については後述しますが、オンラインゲームのコンテキストにおいて、この用語は主に以下の三つの状態を指して使用されます。

  1. リソースの無限循環(Resource Loop): 消費するコストを上回る回復手段を確立し、理論上無限に行動を継続できる状態。
  2. 対戦における無限コンボ(Infinite Combo): カードゲームや格闘ゲームにおいて、一度始動すれば対戦相手に介入の余地を与えず、勝利が確定するまで行動を繰り返す手順。
  3. 自動化された生産システム(Automated Farming): プレイヤーの操作入力を最小限、あるいはゼロにした状態で、ゲーム内通貨や経験値を永続的に獲得し続ける仕組み。

これらの現象は、プレイヤーの創意工夫(創発的プレイ)によって生まれることもあれば、ゲームデザインの欠陥(バグやバランス崩壊)として現れることもあります。

しかし、いずれの場合も「有限のリソース制約を突破する」という点において共通しており、プレイヤーコミュニティにおいては畏敬と批判の両面を持って受け入れられています。


2. 物理法則とデジタル法則の乖離:なぜゲームでは「永久」が可能なのか

「永久機関」という言葉がゲーム用語として定着している背景には、現実世界(Real World)と仮想世界(Virtual World)における物理法則の決定的な違いが存在します。この章では、物理学的な視点からその不可能性を確認しつつ、なぜデジタル空間ではそれが容易に成立してしまうのか、その根本的な構造を分析します。

2.1 熱力学の支配する現実世界

現実世界において永久機関が否定される根拠は、熱力学の法則にあります。

資料によれば、永久機関とは「外部からエネルギーを補給することなく無限に動き続ける機械」と定義されますが、これは以下の二つの法則によって厳格に否定されています。

第一に、「熱力学第一法則(エネルギー保存の法則)」です。

これは、エネルギーは無から生成されることも、消失することもなく、ただ形態を変えるだけであるという宇宙の大原則です。

現実の機械が動くためには、必ず燃料や電力といった入力が必要です。

出力が入力(および内部エネルギーの変化)を上回ることはあり得ません。

第二に、「熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)」です。

これは、エネルギー変換の過程において、必ず利用不可能なエネルギー(主に熱)への散逸が生じることを示しています。

摩擦、空気抵抗、伝送ロスなどにより、システム内のエネルギー効率は決して100%にはなりません。

したがって、外部からの供給がない閉鎖系において、機械はいつか必ず停止します。

2.2 「摩擦」なきデジタル空間の特異性

一方、オンラインゲームの世界は、これらの物理法則に拘束されません。

ゲーム内の物理は、プログラムコードによって記述された「擬似的な物理」であり、開発者(神)が設定したルールのみが絶対的な法則として機能します。

デジタル空間における特異性は、以下の表のように整理することができます。

比較項目現実世界(物理学)オンラインゲーム(デジタル)永久機関への影響
エネルギー保存総量は一定(不変)。無からの生成は不可能。システムによる生成(Pop/Spawn)が可能。敵やリソースが無限に再出現するため、外部供給が絶えない。
摩擦・抵抗不可避。運動エネルギーは熱として失われる。プログラムしなければ存在しない。コストを支払わない限り、リソースは減少しない(ロスゼロ)。
エントロピー時間とともに増大し、秩序は崩壊する。リセットやループにより、初期状態を維持・回復可能。秩序だった無限ループを維持できる。
時間の不可逆性時間は一方向にしか進まない。ターン制やクールダウン短縮により操作可能。特定の時間を繰り返すような挙動が可能。

このように、デジタル空間は「摩擦ゼロの理想環境」を構築することが可能です。

例えば、あるスキルを使用するためのコストが「マナ10」であるとし、そのスキルが命中すると「マナ10を回復する」という効果を持っていた場合、現実世界では動作の過程でエネルギーロスが生じますが、ゲーム内では「10 – 10 + 10 = 10」という計算式が成立し、永久にその行動を繰り返すことができます。

さらに、シナジー効果によって「マナ11を回復する」となれば、動けば動くほどエネルギーが増えていく「第一種永久機関」をも超越した現象が発生します。

2.3 コードによる法則の書き換え

ゲームにおける永久機関は、物理法則への挑戦ではなく、論理パズルの解法と言えます。

プレイヤーは、開発者が記述した無数のルール(カードの効果、スキルの仕様、敵の出現パターン)の中に、計算式が破綻する特異点(Singularity)を探し求めます。

指摘されているように、効率を極限まで追求するプレイヤー(いわゆる効率厨)にとって、ゲームシステムとは「開発者との対話」であり、提示された数式の穴を突くことは、一種の知的遊戯として捉えられています。

彼らは、デジタル空間には「物質的な摩耗」が存在しないことを本能的に理解しており、それゆえに理論上の最適解が見つかれば、それを永遠に実行し続けることに躊躇しません。

現実の機械であれば部品が劣化して壊れるような高負荷の連続稼働であっても、デジタルデータは劣化しないため、サーバーが稼働し続ける限り、その機関は回り続けるのです。


3. 分類とメカニズム:ゲームにおける永久機関の類型学

前章で述べたデジタル空間の特性を踏まえ、本章では実際にオンラインゲーム内で観測される永久機関の具体的な類型とそのメカニズムを詳細に分析します。主に「コンボ型」「リソース型」「放置型」の3つに大別されます。

3.1 コンボ型永久機関:無限ループ(Infinite Loop)

トレーディングカードゲーム(TCG)や対戦型格闘ゲームにおいて最も顕著に見られる形態です。これは、特定のカードや技の組み合わせによって、リソースの消費と回収のサイクルを閉じることで発生します。

3.1.1 発生のメカニズム

TCGにおける無限ループは、多くの場合、以下の4つの要素によって構成されます。

  1. 始動札(Starter): ループを開始するためのカード。
  2. 展開札(Extender): リソースを消費せずに、あるいは消費以上のリソースを生み出しながら次のカードに繋げるカード。
  3. 回収札(Recycler): 使用済みのカードを墓地やマナゾーンから手札や山札に戻すカード。
  4. フィニッシャー(Finisher): ループの過程で相手にダメージを与えたり、ライブラリアウト(山札切れ)を狙ったりするカード。

紹介されている『デュエル・マスターズ』の事例を分析すると、より具体的なイメージが浮かび上がります。

この事例では、「クリスタル・メモリー」のようなサーチカード(山札から好きなカードを手札に加える)と、それを再利用するシステムが核となっています。

動画内の解説によれば、シールドブレイクという相手のアクションをトリガー(契機)として、山札から特定のカード(バイキンなど)をサーチし、呪文を唱えることでドローと捨て札の操作を行い、相手のクリーチャーを除去し続けます。

このプロセスにおいて、「手札」や「マナ」といったリソースが枯渇しないような循環構造が完成すると、プレイヤーは「無限にどうすんだから(どうしようもないから)シャコガイル(勝利条件カード)かな」といった具合に、勝利を「選択」するだけの状態になります。

3.1.2 「ソリティア」化する対戦

このような無限ループが完成した瞬間、ゲームの性質は「対戦」から「一人遊び(ソリティア)」へと変質します。

対戦相手は、自分のターンが回ってこない、あるいは行動権を完全に封じられた状態で、相手が延々とカードを操作し続けるのを眺めることになります。

これは対戦ゲームにおける「相互作用(インタラクション)」の拒絶であり、しばしばプレイヤー間の軋轢や、運営による緊急修正(エラッタや禁止制限)の原因となります。

3.2 リソース型永久機関:自給自足と拡大再生産

MMORPGやサバイバルクラフトゲーム(Minecraft, Factorio等)で見られる形態です。

ここでは、コンボによる瞬発的な無限ではなく、長期的な視点での「自律的な経済システム」の構築が目指されます。

3.2.1 完全自動化への道

サバイバルゲームの初期段階では、プレイヤーは自らの手で木を切り、鉱石を掘る必要があります。

しかし、技術ツリーを進めるにつれて、以下の段階を経て永久機関化が進みます。

  1. 手動採掘: プレイヤーの時間と労力をリソースに変換。
  2. 半自動化: 機械による採掘(燃料は手動補給)。
  3. 完全自動化: 採掘した燃料の一部を機械自身に供給するサイクルの確立。
  4. 拡大再生産: 余剰リソースを用いて新たな機械を自動で建造する自己増殖システム。

この段階に至ると、システムは外部(プレイヤー)からの介入なしに稼働し、リソースは指数関数的に増大します。

これは熱力学第二法則(エントロピー増大)に逆行する現象であり、デジタル空間特有の「完全効率」がもたらす産業革命の極致と言えます。

3.3 放置型永久機関:Botとマクロの領域

システムの仕様の穴、あるいは外部ツールを利用して、プレイヤーが不在の間もキャラクターに行動させ続ける手法です。

3.3.1 自動狩り(Auto-Farming)

MMORPGにおいて、敵が無限に出現するポイント(スポーン地点)にキャラクターを配置し、攻撃ボタンを固定、あるいはマクロ機能を用いて自動戦闘を行わせる行為です。

これにより、経験値やレアアイテム、ゲーム内通貨が、プレイヤーの睡眠中や労働中にも蓄積され続けます。

これは「永久機関」の定義である「労働(エネルギー)なしに仕事をし続ける」状態を、文字通り実現したものです。

多くのゲームでは利用規約(ToS)違反となりますが、一部のモバイルゲームなどでは「オートバトル」として公式機能に組み込まれている場合もあり、その境界線はゲームデザインによって異なります。


4. プレイヤー心理の深層分析:なぜ人は「無限」を渇望するのか

前章までで、ゲーム内永久機関の「How(どのように)」について解説しました。

本章では「Why(なぜ)」に焦点を当て、プレイヤーがこれほどまでに無限ループや効率化に執着する心理的メカニズムを、提供された資料に基づき深掘りします。

4.1 「効率厨」の心理学:経済的合理性への執着

ゲームコミュニティには「効率厨(Min-Maxer)」と呼ばれる層が存在します。

彼らは、ゲームプレイにおける情緒や物語性よりも、数値的な成果(時間あたりの経験値効率など)を最優先する傾向があります。

4.1.1 魂に刻まれた最適化

分析によれば、効率厨は「ゲーム理論における経済的合理人」であるとされています。

彼らにとって、ゲームシステムとは解かれるべきパズルであり、最適解(Most Efficient Tactic Available – META)以外の行動をとることは、非合理的であり、一種の「敗北」や「罪」として認識されます。

「水が低きに流れるようにゲームバランスの穴を突くのが魂に染み付いた行為」であり、彼らにとって永久機関の構築は、バグ利用というよりも、提示されたルールの中で最も賢い選択をした結果に過ぎません。

4.1.2 協力プレイにおける軋轢

この心理は、他者との協力プレイにおいてしばしば衝突を生みます。

効率厨は「各人が全力を尽くして最適解を選ぶことが礼儀」と考えており、ファンデッキ(楽しむための弱い構成)を使用するプレイヤーを「非協力的」と見なすことがあります。

彼らにとって、永久機関のような「必勝のシステム」を使わないことは、手加減や怠慢と同義なのです。

4.2 ドーパミンと報酬系のハイジャック

脳科学的な観点から見ると、永久機関や自動化システムへの没頭は、脳内の報酬系、特にドーパミンの分泌と密接に関連しています。

4.2.1 予測と報酬のサイクル

ドーパミンは、報酬を得た時だけでなく、「報酬が得られると予測した時」にも放出されます。

ゲーム内の永久機関が稼働し始めると、プレイヤーは「これから未来永劫、リソースが増え続ける」という確実な予測を得ます。

この「確約された未来」が、持続的な快感(ドーパミン放出)を生み出します。

通常、ギャンブルや高難易度ゲームでは「リスク」がドーパミンのスパイスとなりますが、永久機関においては「リスクからの完全な解放」が別の種類の快感を提供します。

それは、不確実な現実世界に対する、完全なコントロール感の獲得と言えるでしょう。

4.3 「ゲーム脳」と認知機能への影響

長時間にわたる単純作業や、思考停止状態でのループプレイは、認知機能に影響を与える可能性があります。

4.3.1 前頭前野の抑制

6では、いわゆる「ゲーム脳」の状態について触れられています。ゲームプレイ中は視覚や運動に関わる神経が活発化する一方で、思考や意思決定、情動抑制を司る前頭前野の活動が抑制される傾向があります。

永久機関が完成した後のプレイ(ただ画面を眺める、決まった手順を繰り返す)は、この前頭前野の抑制状態を長時間維持することになります。

これにより、集中力や判断力が低下する懸念が指摘されていますが、一方で、この「何も考えなくて良い状態」が、過剰な情報社会に生きる現代人にとっての休息(瞑想に近い状態)として機能しているという側面も見逃せません。


5. インクリメンタルゲームの台頭:永久機関のジャンル化

「永久機関」を作ること自体をゲームの主目的に据えたジャンルが存在します。

それが「インクリメンタルゲーム(Incremental Games)」、通称「放置系ゲーム(Idle Games)」や「クリッカーゲーム」です。

このジャンルの分析を通じて、現代人の深層心理における「無限」への渇望を解明します。

5.1 「プレイしないこと」への報酬

『Cookie Clicker』や『Melvor Idle』といったゲームは、最初はプレイヤーが手動でクリックしてリソースを集めますが、すぐに自動生産施設を購入し、ゲームプレイの主軸が「操作」から「管理」へと移行します。

そして最終的には、ゲームを起動していない間(オフライン)もリソースが増え続けるようになります。

5.1.1 罪悪感なき進捗(Guilt-free Progression)

資料は、このジャンルが提供する独特な心理的価値について言及しています。

多くのゲーマーは、現実世界の責任(勉強、仕事)から逃避してゲームをすることに微かな罪悪感を感じています。

しかし、インクリメンタルゲームは「放置している間も進捗する」ため、「時間を無駄にしている」という感覚が希薄です。

「寝ている間にレベルが上がった」「仕事をしている間に大金が貯まった」という体験は、現実世界では得難い「不労所得」の快感をシミュレートしています。

これは、努力と成果が必ずしも比例しない現実社会に対する、痛烈なアンチテーゼであり、理想郷の提供です。

5.2 メタゲームとしての戦略性

一見すると単調に見えるこのジャンルですが、プレイヤーは高度な戦略的思考を行っています。

プレイヤーは「どの施設をアップグレードすれば効率が最大化するか」「どのスキル順序が最適か(Optimal Route)」という計算に熱中します。

これは、プレイヤーが「現場作業員(実際に剣を振る役割)」から「工場管理者(システムを設計する役割)」へと昇格したことを意味します。

効率厨的な欲求を、誰にも迷惑をかけずに、かつ純粋な形(数字の増加)で満たすことができるため、多くのインテリジェンスなゲーマーがこの「数字が増えるだけのゲーム」に魅了されています。

5.3 現代人の精神安定剤(Coping Mechanism)

インクリメンタルゲームが「コーピングメカニズム(対処規制)」として機能していると分析されています。

  • No Stress: 対人ゲーム(LoLやDotAなど)のような競争ストレスがない。
  • Reliability: 努力(時間経過)が必ず報われる。数字は裏切らない。
  • Control: 自分のペースで、自分の世界を完全に支配できる。

不安定で不確実な現代社会において、この「確実な成長」と「安全な永久機関」は、精神的な安らぎを与える避難所となっているのです。


6. ゲームデザインと経済への影響:開発者との「いたちごっこ」

プレイヤーが追い求める永久機関は、ゲーム開発者にとっては諸刃の剣です。

プレイヤーに快感を与える一方で、ゲームバランスを崩壊させ、コンテンツの寿命を縮める要因となるからです。

6.1 ゲーム内経済の崩壊リスク

MMORPGなど、プレイヤー間で取引が可能なゲームにおいて、永久機関(自動狩りや無限増殖バグ)の存在は致命的です。

現象メカニズム経済的結末
ハイパーインフレ通貨の無限生成により、通貨価値が暴落する。物価が高騰し、真面目にプレイする層がアイテムを買えなくなる。
希少性の喪失レアアイテムが自動化により大量供給される。アイテム収集の動機(モチベーション)が失われ、市場が停滞する。
格差の固定化自動化システムを早期に構築した者と、そうでない者の資産格差が拡大。新規プレイヤーの参入障壁が高まり、コミュニティが過疎化する。

このように、一人のプレイヤーの「永久機関」は、世界全体の「死」を招く可能性があります。

これは現実世界の環境問題や資源乱獲と類似した構造を持っています(共有地の悲劇)。

6.2 開発者の対抗策:物理法則の強制導入

開発者は、デジタルの無限性を抑制するために、システムにあえて「物理的な制約」を導入します。

6.2.1 ナーフ(Nerf)と禁止制限

無限ループが発見された場合、最も直接的な対応は、その原因となるカードやスキルの効果を変更(弱体化・ナーフ)することです。

あるいは、TCGでは「禁止カード」に指定して使用不可にします。

これは、触れられているような「相手が何もできない状態」を解消し、健全な対話(インタラクション)を取り戻すための外科手術です。

6.2.2 スタミナ制と回数制限

「行動力(スタミナ)」というシステムは、プレイヤーの行動回数に人為的な上限を設ける仕組みです。

これは、デジタル空間に擬似的な「疲労」や「燃料切れ」を導入する試みであり、熱力学第一法則(エネルギーは有限である)をゲームルールとして強制するものです。

6.2.3 収穫逓減の法則(Diminishing Returns)

長時間同じ場所で狩りを続けると経験値やドロップ率が低下するシステムなどを導入し、効率を徐々に悪化させる手法です。これは熱力学第二法則(エントロピー増大による効率低下)を模倣したものであり、完全な永久機関の成立を阻害します。

6.3 終わらない軍拡競争

しかし、開発者がどのような対策を講じても、プレイヤー(特に効率厨)は新たな「穴」を探し出します。3にあるように、彼らにとって最適解の追求は「魂に染み付いた行為」であるため、このいたちごっこはゲームがサービス終了を迎えるまで続きます。この攻防こそが、オンラインゲームの進化の歴史そのものであるとも言えます。


7. 結論:終わらないループの先にあるもの

7.1 本研究の総括

本報告書では、オンラインゲームにおける「永久機関」について、物理的定義との対比、具体的なメカニズム、プレイヤー心理、そして経済的影響という多角的な視点から分析を行いました。

  1. 理論的背景: デジタル空間は熱力学の法則から解放されているため、論理的な設計さえ整えば、永久機関の構築は必然的に可能である。
  2. メカニズム: その形態は「無限コンボ」「資源ループ」「放置システム」など多岐にわたるが、いずれも「リソース制約の突破」を本質とする。
  3. 心理的要因: プレイヤーは「効率」への本能的な渇望、ドーパミンによる報酬系の刺激、そして不確実な現実からの逃避(コントロール感の獲得)を動機として、無限を追求する。
  4. 社会的影響: 個人の最適化(永久機関)は、しばしば全体(ゲーム経済・コミュニティ)の崩壊を招くため、開発者による継続的な介入と規制が必要不可欠である。

7.2 考察:人間はなぜ「無限」に惹かれるのか

オンラインゲームにおける「永久機関」への執着は、単なる攻略テクニックへの関心を超えた、より根源的な人間の欲望を映し出しています。

現実世界において、私たちは常に「有限」に苦しめられています。

時間は失われ、エネルギーは枯渇し、金銭は消費すればなくなります。

「無から有を生み出し続けたい」「減らない財布が欲しい」という錬金術的な願望は、人類共通の夢です。

ゲームという仮想空間は、この叶わぬ夢が「コード」という魔法によって実現可能な唯一の場所です。

画面の中で数字が無限に増え続ける様を見つめる時、プレイヤーは一時的に熱力学の呪縛から解放され、万能感(Omnipotence)に浸ることができます。

インクリメンタルゲームの流行や自動化への情熱は、制約だらけの現実世界に対する、現代人のささやかな反逆であり、デジタル技術を用いたユートピア構築の試みであると結論付けることができます。

7.3 今後の展望:AIと自動化の融合

今後、AI技術の発展により、ゲームプレイの自動化はさらに高度化するでしょう。

AIが自らゲームのルールを解析し、人間には思いつかないような複雑な永久機関を構築する時代が到来する可能性があります。

その時、人間は「プレイする主体」から、AIが織りなす無限のループを「鑑賞する主体」へと変容していくのかもしれません。

「遊ばないこと」が究極の遊びとなるパラドックスの中で、我々は「ゲームとは何か」「楽しさとは何か」という定義を、根本から再考する必要に迫られています。

オンラインゲームにおける永久機関の研究は、単なるゲーム攻略の枠を超え、デジタル時代における人間の幸福と労働のあり方を問う、哲学的な問いへと繋がっているのです。

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