1. 序論:重力からの解放と空間的自由の定義

ビデオゲーム、特にアクションゲームや対戦格闘ゲームの歴史において、キャラクターの移動能力の進化は、ゲームデザインの根本的な変革と密接に結びついています。
その中でも「エアダッシュ(Air Dash)」は、ジャンプという垂直方向の移動に加え、空中での水平方向への急加速を可能にすることで、プレイヤーに「重力からの解放」と「空間支配の自由」を与えました。
本記事では、エアダッシュというメカニクスがどのように定義され、歴史的にどのように生まれ、そして現代の高度な物理演算を伴うプラットフォームアクションや対戦格闘ゲームにおいてどのように進化・分岐していったのかを、提供された膨大な資料に基づき包括的に分析します。
1.1 エアダッシュの定義と現象学的側面
エアダッシュとは、広義には「空中で特定の方向(主に水平、場合によっては斜めや全方位)へ高速移動するアクション」を指します。
しかし、これは単なる移動速度の向上を意味するだけではありません。
現象学的に見れば、エアダッシュは「落下の拒絶」であり、物理法則(特に重力加速度)に対する一時的な抵抗です。
プレイヤーにとって、一度ジャンプしてしまえば着地地点が予測可能であるという「放物線の拘束」から脱し、空中で軌道を再定義できる権利を得ることを意味します。
この「自由」こそが、エアダッシュを持つキャラクターを操作する際の独特な浮遊感と全能感の源泉となっています。
1.2 本報告書の構成と目的
本記事では、以下の観点からエアダッシュを多角的に分析します。
- 歴史的起源の考古学: 1990年代初頭の『ロックマンX』や『ヴァンパイア』シリーズにおける萌芽と確立。
- 対戦格闘ゲームにおける戦術論: 「エアダッシャー」というサブジャンルの成立、中段攻撃やファジーガード崩しといった高度な駆け引き。
- プラットフォームアクションの物理学: 『Celeste』や『Hollow Knight』に見られる、慣性保存とフレーム単位の操作精度。
- 『スマブラ』における特異性: エアダッシュを意図的に制限するデザイン哲学と、その代替としての空中回避の進化。
- 3D空間と開発実装: ゲームエンジンレベルでの実装課題と、3DアクションRPGにおける役割。
これらの分析を通じ、エアダッシュが単なる「ボタンを押すと速く動く」機能ではなく、ゲームジャンルごとに異なる進化を遂げた深遠なメカニクスであることを明らかにします。
2. 歴史的起源:1990年代の革命とジャンルの分岐
エアダッシュの概念がビデオゲームの標準的な語彙として定着したのは、16ビット機全盛期の1990年代前半です。
この時期、アクションゲームと対戦格闘ゲームは相互に影響を与え合いながら、キャラクターの機動性を劇的に向上させました。
2.1 『ロックマンX』:プラットフォーマーへの標準化
1993年12月17日に日本でスーパーファミコン向けに発売された『ロックマンX』は、エアダッシュ(作中ではフットパーツ入手後の機能として実装)をプラットフォームアクションの標準的なメカニクスとして定着させた記念碑的な作品です。
2.1.1 地上から空中への拡張
従来の『ロックマン』シリーズ(初代〜6)には「スライディング」という地上ダッシュが存在し、狭い通路を抜けたり、敵の攻撃を姿勢を低くして回避したりするために使われていました。
しかし、『ロックマンX』ではこれを空中に拡張しました。
この革新性は、単に「空中で速く動ける」こと以上に、「壁蹴り(ウォールキック)」とのシナジーにあります。
プレイヤーは、壁を蹴って飛び出した直後にエアダッシュを行うことで、壁から離れる方向へ高速で長距離移動したり、逆に壁に向かってダッシュすることで素早く高所の足場へ復帰したりといった、複雑なトラバーサル(移動術)が可能になりました。
2.1.2 シリーズを通じた進化とバリエーション
『ロックマンX』シリーズが進むにつれ、エアダッシュは初期装備ではなく強化パーツによる能力として位置づけられることが多くなりましたが、その重要性は増していきました。
- 『ロックマンX2』(1994年): エアダッシュが標準的なアップグレードとして定着し、さらに隠し要素として空中での連続使用や、より制御性の高い挙動が模索されました。
- 『ロックマンX3』(1995年): 上方向へのエアダッシュ(ヴァリアブルエアダッシュ)が登場し、垂直方向への機動力が強化されました。
この「移動自体が攻略の鍵となる」デザインは、後の『Hollow Knight』や『Celeste』といった現代の探索型アクション(メトロイドヴァニア)に直接的な影響を与えています。
2.2 『ヴァンパイア』シリーズ:対戦格闘ゲームの高速化
対戦格闘ゲームの分野において、エアダッシュをシステムとして確立し、「エアダッシャー(Air Dasher)」と呼ばれる高速展開のサブジャンルを形成するきっかけとなったのは、カプコンの『ヴァンパイア(Darkstalkers)』シリーズです。
2.2.1 初期の導入者たち
1994年の初代『ヴァンパイア』において、全キャラクターがエアダッシュを持っていたわけではありません。
ザベル(Lord Raptor)など一部の異形なキャラクターのみがこの能力を有しており、それは彼らの「人間離れした動き」を表現するための演出的な側面が強いものでした。
しかし、プレイヤーたちは即座にその戦術的優位性に気づきました。
通常のジャンプ攻撃が放物線を描く予測可能な軌道であるのに対し、エアダッシュは鋭角に接近し、相手の対空技のタイミングをずらすことができたのです。
2.2.2 ジャンル全体の加速
続編である『ヴァンパイア ハンター』や『ヴァンパイア セイヴァー』において、より多くのキャラクターに空中機動が実装され、チェーンコンボ(弱攻撃から強攻撃へ繋がるシステム)と並んで同シリーズの高速なゲーム展開を象徴するシステムとなりました。
これにより、格闘ゲームにおける「空中戦」の意味合いが大きく変化しました。
従来、『ストリートファイターII』などでは、ジャンプは「リスクを伴う接近手段」でしたが、エアダッシュの導入により「攻めの起点」へと変貌を遂げたのです。
2.3 『ドラゴンボールZ 超武闘伝2』:舞空術という別解
同時期のアニメ原作ゲーム、特に1993年の『ドラゴンボールZ 超武闘伝2』などにおいても、独自の空中移動メカニクスが見られます。
これらのゲームでは「舞空術(Flight)」として、空中を自由に移動できるシステムが採用されていました。
2.3.1 デュアルスクリーンと空間管理
『超武闘伝2』では、デュアルスクリーン(分割画面)システムを採用しており、キャラクター同士が大きく離れると画面が分割される仕様でした。ここでの空中移動は、瞬間的な加速である「ダッシュ」とは異なり、L/Rボタンなどで上昇・下降を行う継続的な飛行状態に近いものです。しかし、気を練りながら高速で接近・離脱を行う挙動は、後の『ドラゴンボール ファイターズ』における「超ダッシュ(Super Dash)」の原形とも言える要素を含んでいます。
2.3.2 原作再現としてのメカニクス
このシステムは、原作アニメの「空中での高速戦闘」を再現するための必然的な実装でした。
地上戦だけでなく、空中での位置取り、気弾の撃ち合い、そして一気に距離を詰めての肉弾戦という展開を作るために、空中移動の自由度は不可欠でした。
これは、純粋な競技性よりも「キャラクター体験」を重視した結果生まれた、エアダッシュのもう一つの進化系統と言えます。
3. 対戦格闘ゲームにおける戦術的進化と深淵
2000年代以降、アークシステムワークスの『GUILTY GEAR』シリーズや『BLAZBLUE』シリーズの登場により、エアダッシュは「アニメ格闘ゲーム(Anime Fighters)」における必須教養となりました。
ここでは、単なる移動手段を超えた、高度な攻防のメカニクスについて、フレームデータやガードシステムとの関連から詳細に分析します。
3.1 攻撃的用途:崩しのメカニズム
現代の2D格闘ゲームにおいて、エアダッシュの最大の用途は「ガード崩し」です。
これを理解するためには、格闘ゲームのガードシステム(立ちガードとしゃがみガード)の基本構造を知る必要があります。
3.1.1 中段攻撃(Overhead)の高速化
通常、地上からの攻撃の多くは「立ちガード」でも「しゃがみガード」でも防げますが、足払いは「しゃがみガード」でしか防げず、ジャンプ攻撃は「立ちガード」でしか防げません(これを中段攻撃と呼びます)。
エアダッシュ(特に低空ダッシュ)は、ジャンプしてから攻撃が届くまでの時間を劇的に短縮します。
『GUILTY GEAR』シリーズなどでは、ジャンプ直後に素早く空中ダッシュを入力することで、相手が反応しきれない速度で中段攻撃を叩き込むことが可能です。
- 地上からの下段攻撃の脅威: 相手にしゃがみガードを意識させる。
- 低空エアダッシュからの中段攻撃: 相手がしゃがんでいるところに、頭上からの攻撃を当てる。
この二択(Mix-up)を高速で回転させることが、エアダッシャー系ゲームの攻めの基本となります。
3.1.2 「めくり(Cross-up)」の強化
エアダッシュは、相手の頭上を飛び越えながら背後から攻撃する「めくり」においても強力です。
通常のジャンプでは軌道が読みやすく、相手も振り向きガードが容易ですが、エアダッシュによる急加速を混ぜることで、相手は「表(正面)」から来るのか「裏(背後)」から来るのかを瞬時に判断することが困難になります。
3.2 防御的用途と「ファジーガード」の攻防
一方で、エアダッシュは防御手段としても機能しますが、そこには「ファジーガード(Fuzzy Guard)」と呼ばれる高度な防御テクニックとの密接な関係があります。
3.2.1 ファジーガードの原理
ファジーガードとは、相手の攻撃タイミングに合わせて、複数のガード方向をタイミングよく入力する技術です。
例えば、「一瞬しゃがみガードをして、すぐに立ちガードに切り替える」という操作を行うことで、相手が早めに来る下段攻撃を出していても、遅れて来る中段攻撃を出していても、両方をガードしようとするテクニックです。
3.2.2 エアダッシュによる「ファジー潰し」
攻撃側は、このファジーガードを崩すためにエアダッシュを利用します。
これを「ファジー潰し(Fuzzy Guard Break)」と呼びます。
防御側のキャラクターがガードを切り替える際や、ジャンプで逃げようとする際には、数フレームの隙が生じることがあります。
特にジャンプ移行フレーム(Jump Startup、多くのゲームで4〜5フレーム)は、投げに対しては無敵ですが、打撃に対しては無防備であることが多いです。
攻撃側は、エアダッシュや二段ジャンプを駆使して空中で滞空時間を微調整し、防御側が「ジャンプして逃げようとした瞬間」や「ガードを切り替えた瞬間」に攻撃判定を重ねることで、強制的にダメージを与えます。
この高度な読み合いにおいて、エアダッシュはタイミングをずらすための主要なツールとなります。
3.3 『ドラゴンボール ファイターズ』と『MARVEL VS. CAPCOM』の極致
『ドラゴンボール ファイターズ』では、全キャラクターが共通システムとして「超ダッシュ(Super Dash)」を持っています。
3.3.1 ホーミング性能と弾幕耐性
このゲームの超ダッシュは、従来のエアダッシュとは異なり、相手キャラクターに向かって自動的に追尾(ホーミング)する性質を持ちます。
さらに、弱レベルの気弾(飛び道具)を弾きながら突進する特性があるため、遠距離戦を拒否して強制的に接近戦に持ち込むための強力な手段となっています。
操作も方向キーの2回入力または専用ボタン(R2など)で行えるため、初心者でも高速な空中戦を楽しめる設計になっています。
3.3.2 『MARVEL VS. CAPCOM』のエリアルレイヴ
『MARVEL VS. CAPCOM』シリーズでは、エアダッシュに加え「スーパージャンプ」や「8方向エアダッシュ」を持つキャラクター(マグニートーやストームなど)が多く登場します。
ここではエアダッシュはコンボパーツとして極めて重要です。
相手を空中に打ち上げた後、ジャンプやエアダッシュで追いかけ、空中で連続攻撃を叩き込む「エリアルレイヴ」は、同シリーズの華であり、エアダッシュはその継続性を支えるバックボーンとなっています。
4. プレシジョン・プラットフォーマーの物理学:『Celeste』と『Hollow Knight』
2010年代後半に台頭した「高難易度プラットフォームアクション(プレシジョン・プラットフォーマー)」において、エアダッシュは物理演算と密接に結びついた、極めて精緻なメカニクスとして再定義されました。
ここでは、『Celeste』と『Hollow Knight』を例に、その詳細な仕様と挙動を分析します。
4.1 『Celeste』における慣性と運動量の保存
『Celeste』は、エアダッシュの挙動に関して最も深く研究され、コミュニティによって解析されたゲームの一つです。
このゲームにおけるダッシュは、単なる移動ではなく、キャラクターの速度ベクトル(Velocity)を書き換える操作であり、その後の慣性保存が重要な鍵となります。
4.1.1 基本仕様とフレームデータ
主人公マデリンのダッシュは、8方向に入力可能です。
- ダッシュ持続時間: 15フレーム(約0.25秒)。この間、重力の影響を受けず、直進します。
- 速度設定: 上方向や横方向へのダッシュは特定の固定速度に設定されますが、斜め下方向へのダッシュは特殊な挙動を示します。
- 視覚的フィードバック: ダッシュが使用可能な状態では髪が赤色、使用済み(空中で再使用不可)の状態では青色(シアン)、ダッシュ中は白く発光します。
4.1.2 応用テクニック:Wave Dash, Hyper, Ultra
『Celeste』のゲームプレイの深淵は、ダッシュとジャンプを組み合わせた際の特殊な物理挙動にあります。
これらは開発者が意図的に残した、あるいは調整した「創発的な仕様」です。
| テクニック名 | 操作方法 | 物理的挙動と効果 | 出典 |
| Wave Dash | 空中で斜め下へダッシュ → 着地直後にジャンプ | ダッシュの速度を維持したまま大ジャンプを行う。空中で発動するため、着地時にダッシュ回数が回復し、連続使用が可能。 | |
| Hyper Dash | 地上で下入力+ダッシュ → 直後にジャンプ | 低空を高速で飛ぶ軌道を描く。Wave Dashと同様の速度だが、軌道が低い。 | |
| Ultra Dash | 高速移動中(Hyper後など)に空中で斜め下へダッシュ | 通常、空中でダッシュすると速度はリセットされるが、斜め下入力の場合のみ、現在の慣性に1.2倍の速度ブーストがかかる。 |
特に「ウルトラダッシュ(Ultra)」は重要で、これを連続して行う(Chained Ultras)ことで、理論上は驚異的な速度に到達することが可能です。
これは、斜め下ダッシュのY軸成分が地面に変換される際に、X軸成分の速度が減衰せずに増幅される物理演算の仕様を利用しています。
4.1.3 エンティティとの相互作用
ダッシュは移動手段であると同時に、世界とのインタラクション手段でもあります。
- Dash Block: ダッシュで体当たりすることで破壊可能。
- Dream Block: ダッシュで突入すると、ブロック内を高速ですり抜けることができる。
- Kevin Block: 特定の面からダッシュを当てることで、ブロック自体を移動させることができる。
4.2 『Hollow Knight』における戦闘と探索の融合
『Hollow Knight』におけるエアダッシュ能力「蛾の羽根の衣(Mothwing Cloak)」は、探索範囲の拡大と戦闘アクションの両面で機能します。
4.2.1 入手と基本性能
この能力はゲーム序盤のエリア「緑の道(Greenpath)」で、ボス「ホーネット(Hornet)」を倒すことで入手できます。
- クールダウン: 地上でのダッシュには約0.6秒のクールダウン(再使用待機時間)が存在します。
- 空中での制限: 空中ダッシュにはクールダウンはありませんが、一度空中で使用すると、着地するか、壁に「カマキリの爪(Mantis Claw)」で掴まるまで再使用できません。ただし、特定のチャームやテクニックでこの制限を緩和することが可能です。
- 下方向ダッシュ: 「ダッシュマスター(Dashmaster)」というチャームを装備することで、下方向へのダッシュが可能になり、移動の幅が広がります。
4.2.2 影のダッシュ(Shade Cloak)と無敵時間
ゲーム後半で入手できるアップグレード版「影の衣(Shade Cloak)」は、ダッシュに無敵時間を付与します。
これにより、敵の攻撃判定や敵そのものをすり抜けることが可能になります。
- Sharp Shadow: 「鋭利な影(Sharp Shadow)」というチャームを装備すると、影のダッシュの距離が伸び、すり抜けた敵にダメージを与える攻撃判定が発生します。
- 戦術的意義: この無敵ダッシュには独自の内部クールダウン(約1.5秒程度、UI上の黒いパーティクルで表示)があるため、ボス戦では「いつ無敵ですり抜けるか」というリソース管理が極めて重要になります。
4.2.3 プラットフォームからの逸脱
『Hollow Knight』の興味深い仕様として、プラットフォームの端からダッシュで飛び出した場合、空中ダッシュの使用回数が消費されないという挙動があります。
これにより、「地上ダッシュで空中に飛び出す → 空中でさらにダッシュする」という疑似的な2回ダッシュが可能となり、正規ルートではないショートカットや、高難易度エリア(苦痛の道など)の攻略に利用されます。
5. 『大乱闘スマッシュブラザーズ』における特異点と空中回避
『大乱闘スマッシュブラザーズ(スマブラ)』シリーズは、他の格闘ゲームとは異なり、伝統的な意味での「エアダッシュ」を持つキャラクターが非常に限られています。
その代わりに「空中回避(Air Dodge)」という独自のシステムが進化し、結果としてエアダッシュに近い役割を果たすようになりました。
5.1 「エアダッシュ」不在のデザイン哲学
スマブラにおいて、一般的な格闘ゲームのような「いつでも使える高速エアダッシュ」が標準実装されていない理由は、そのゲームの勝利条件にあります。
スマブラは相手を画面外に押し出す(バーストさせる)ゲームであり、復帰阻止と復帰の攻防が重要です。もし全キャラクターが強力なエアダッシュを持っていれば、復帰が容易になりすぎ、ゲームの緊張感が損なわれる可能性があります。
5.2 キャラクターごとの例外的な実装
「エアダッシュ」と呼べる能力を持つファイターは、その能力自体が個性の核となっています。
| キャラクター | 技名・アクション | 詳細な仕様 | 出典 |
| ソラ | ソニックレイヴ (横B) | 敵を自動追尾(ロックオン)して空中で3回まで連続突進する。攻撃判定があり、復帰技としても使用可能。 | |
| ヨッシー | ふんばりジャンプ | 厳密にはダッシュではないが、空中ジャンプ中に非常に高い慣性制御とスーパーアーマー(ダメージを受けても吹っ飛ばない耐性)を持つ。空中移動速度は全ファイター中1位(1.344)。 | |
| プリン | 空中移動 | 多段ジャンプに加え、空中での横移動速度が極めて速い(全ファイター中2位:1.332)。「空中の支配者」としてデザインされている。 | |
| ミュウツー/パルテナ | テレポート (上B) | 姿を消して瞬間移動する。スティック入力で出現位置を調整でき、実質的な無敵エアダッシュとして機能する。 |
5.3 絶(Wavedash)と移動空中回避の変遷
スマブラにおけるエアダッシュの歴史を語る上で、「絶(Wavedash)」は避けて通れません。
5.3.1 『DX(Melee)』における「絶」
『大乱闘スマッシュブラザーズDX』において発見された「絶」は、空中回避を斜め下の地面に向かって行い、着地時の摩擦を利用して滑るテクニックです。
システム的には空中回避の応用ですが、操作感としては「地上の高速ダッシュ」や「着地隙のない移動」として機能し、攻撃の差し合いや位置調整に革命をもたらしました。
これは開発者が意図しない挙動(物理エンジンの仕様)でしたが、競技シーンでは必須技術となりました。
5.3.2 『SP(Ultimate)』における移動空中回避
最新作『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』では、「移動空中回避(Directional Air Dodge)」が正式なシステムとして採用されています。
- 仕様: スティックを倒した方向に空中回避を行うことで、短距離を移動できる。
- リスク: 使用後の着地硬直(ラグ)が非常に大きく設定されており、復帰時に使用してミスをすると自滅のリスクが高い。
- 戦術: 相手の攻撃をギリギリで避けて着地する、あるいは復帰距離を少し稼ぐために使われますが、かつての「絶」のように攻撃の起点として連発することはできません。
6. 3DアクションとRPGにおける空間制御
3D空間を舞台にするゲームでは、エアダッシュは距離感の把握(Depth Perception)を補い、立体的な戦闘を成立させるための重要なツールです。
6.1 『キングダムハーツ』のエアスライドとフリーフロー
『キングダムハーツ』シリーズでは、エアダッシュは移動とアクションをつなぐ接着剤のような役割を果たしています。
- エアスライド (Air Slide): 空中で高速移動を行うアビリティ。敵との距離を一気に詰める接近手段として、あるいは広範囲攻撃からの緊急回避手段として機能します。
- 派生技: 『Birth by Sleep』の「アイススライド」のように、移動自体に攻撃判定や属性効果を付与する派生アビリティも存在し、移動と攻撃の境界が曖昧になっています。
- フリーフローアクション: 『Dream Drop Distance』以降では、壁や柱に向かってエアダッシュすることで、そこから強力な派生攻撃や大ジャンプに繋げる「フリーフローアクション」が導入され、フィールド全体をアスレチックのように使うことが可能になりました。
6.2 開発者視点:Unity等での技術的実装と物理演算
ゲーム開発の視点(UnityやUnreal Engine)から見ると、エアダッシュの実装は物理法則との戦いです。
6.2.1 実装のアプローチ
開発者フォーラムでの議論によると、エアダッシュの実装には主に2つのアプローチがあります。
- Velocity(速度)の直接書き換え:
rb.velocity = Vector2.right * dashSpeed;のように、現在の物理挙動を無視して強制的に速度を上書きする方法。挙動がキビキビとして操作性が良いが、物理挙動(壁への衝突など)との整合性を取るのが難しい。 - AddForce(力の加算): キャラクターに瞬間的な力を加える方法。慣性が自然に乗るが、思った通りの距離で止める制御が難しい。
6.2.2 重力との戦い
特に重要なのが「ダッシュ中のY軸(高さ)の固定」です。
重力を切らずに空中でダッシュすると、放物線を描いて落ちてしまいます。
しかし、多くのアクションゲームでは「真横に一直線に飛ぶ」挙動が好まれます。
これを実現するために、ダッシュ中のみ「Gravity Scale(重力倍率)」を0にし、ダッシュ終了後に元に戻すといった処理がコードレベルで行われています。
7. 結論:エアダッシュがもたらしたゲーム体験の変容
本報告書の分析を通じて、エアダッシュというメカニクスが、単なる「移動機能」を超えて、ゲームのジャンルそのものを定義づける重要な要素であることが明らかになりました。
- 対戦格闘ゲームにおいて: エアダッシュは、地上戦という二次元の平面から、空中戦という三次元の空間へと戦場を拡張しました。それは「反応速度」だけでなく、「空間把握能力」と「読み合いの速度」をプレイヤーに要求する進化を促しました。
- プラットフォームアクションにおいて: 『Celeste』に見られるように、エアダッシュは物理演算と慣性を操る「道具」となりました。プレイヤーは固定されたジャンプ軌道に従う受動的な存在から、自らの運動量を設計し、レベルデザインをねじ伏せる能動的な存在へと変貌しました。
- アクションRPGにおいて: 広大な3D空間における敵との距離を一瞬で詰める手段として、戦闘のテンポを劇的に向上させました。
エアダッシュとは、プレイヤーがゲーム内の物理法則に一時的な反逆を試みるための「翼」です。
テクノロジーの進化と共に、よりリアルな物理演算やVR(仮想現実)空間においても、この「空を駆ける快感」は形を変えながら、アクションゲームの中核的な魅力として継承されていくことでしょう。
付録:主要ゲームタイトルにおけるエアダッシュ性能比較表
以下の表は、本報告書で取り上げた主要タイトルにおけるエアダッシュの仕様を比較・要約したものです。
| ゲームタイトル | 名称 | 軌道・挙動 | 攻撃判定 | 特記事項 | 出典 |
| ロックマンX | エアダッシュ | 水平方向(X3で上追加) | なし(一部パーツで可) | 壁蹴りと併用可能。プラットフォーマーのスタンダードを確立。1993年実装。 | |
| Celeste | Dash | 8方向 | なし(髪の色で判別) | 慣性保存による加速(Ultra)が可能。使用後15F重力無視。 | |
| Hollow Knight | Mothwing Cloak | 水平(地上/空中) | なし | Shade Cloak入手で無敵付与。空中使用回数は着地/壁掴みでリセット。地上CD0.6秒。 | |
| Guilty Gear | 空中ダッシュ | 水平(一部キャラ可変) | なし | ガード崩し(中段)やファジー潰しに必須。ジャンプ移行Fを狩る戦術。 | |
| Smash Ultimate | 移動空中回避 | 全方向(スティック) | なし | 使用後の隙が大きい。事実上のエアダッシュだが防御的性質が強い。 | |
| Kingdom Hearts | エアスライド | 水平 | なし(派生で可) | ロックオン対象への接近や回避に使用。フリーフローへの起点。 | |
| DBZ 超武闘伝2 | 舞空術 | 自由飛行 | なし(気弾は可) | ダッシュというよりは飛行モード。気を消費する駆け引きと画面分割。 | |
| DB FighterZ | 超ダッシュ | ホーミング(追尾) | あり | 弱気弾を弾く性能。ボタン一つで高速接近が可能。 |
