第1章:序論 ― 空中コンボの定義とその概念的枠組み

1.1 概念の定義と分類
対戦格闘ゲーム(以下、格ゲー)というジャンルにおいて、攻撃の連続性、すなわち「コンボ(Combo)」は、プレイヤーの技術介入度と爽快感を決定づける最も重要な要素の一つです。
その中でも「空中コンボ」は、三次元的な空間支配を象徴する技術体系として位置づけられています。
広義における空中コンボとは、対戦相手が空中に浮いている状態(食らい判定を残したまま制御不能な状態)に対して、攻撃側が追撃を行い、連続してダメージを与える行為の総称です。
これは一般的に、相手が地上に接地している状態で技を繋ぐ「地上コンボ」と対比される概念です。
地上コンボが「のけぞり(ヒットスタン)」を利用して技を繋ぐのに対し、空中コンボは「浮き(Launch)」と「落下重力」という物理的なパラメータを利用して成立します。
さらに、空中コンボは攻撃側の位置によって大きく二つのサブカテゴリに分類されます。
- 地対空型(Juggle): 攻撃側が地上に位置したまま、浮いている相手に打点の高い技を当て続ける形式。主に3D格闘ゲーム(『鉄拳』シリーズなど)や、クラシックな2D格闘ゲーム(『ストリートファイターII』など)で見られる形式です。
- 空対空型(Aerial Rave / Air Combo): 攻撃側もジャンプして空中に飛び上がり、空中の相手に対して連続攻撃を加える形式。『X-MEN VS. STREET FIGHTER』以降の「VS.シリーズ」や、『ギルティギア』シリーズなどの「アニメ格闘ゲーム(Anime Fighters)」において顕著なシステムです。
本記事では、特に後者の「攻撃側も空中に移行して行う連続技」を中心に、その技術的構造、歴史的変遷、そして戦略的価値について、可能な限り詳細かつ網羅的に論じます。
1.2 「エリアルレイヴ」という用語の文化的定着
「空中コンボ」という一般名詞と並行して使用される「エリアルレイヴ(Aerial Rave)」という用語は、特定のゲームタイトルに由来しながらも、ジャンル全体を象徴する用語として定着しました。
この言葉は、1996年にカプコンがリリースした『X-MEN VS. STREET FIGHTER』において、システム名として初めて採用されました。
同作におけるエリアルレイヴは、「相手を打ち上げる始動技(Launcher)」から「スーパージャンプによる自動追尾」、そして「空中でチェーンコンボを叩き込む」という一連のプロセスをシステム化したものでした。
このシステムがもたらした視覚的衝撃と操作の爽快感は凄まじく、以降、メーカーやタイトルを問わず、空中での連続技全般を指して「エリアル」と呼称する文化が形成されました。
プレイヤー間では「エリアルを入れる」「エリアルで運ぶ」といった会話が日常的に交わされており、これは単なる機能の説明を超え、格ゲーの共通言語(リングワフランカ)としての地位を確立しています。
第2章:歴史的背景 ― バグから仕様、そして競技性の核心へ
空中コンボの歴史を紐解くことは、格闘ゲームの進化そのものを追体験することに他なりません。
初期の「現象」としての扱いから、現代の高度に計算された「競技要素」に至るまでの変遷を詳述します。
2.1 黎明期:『ストリートファイターII』と「ジャグリング」の発見
1991年の『ストリートファイターII』の登場時、開発側は意図的な空中コンボシステムを実装していませんでした。
しかし、プレイヤーたちの探究心により、特定の状況下で「空中にいる相手に追撃ができる」現象が発見されました。
これを英語圏では「Juggling(お手玉)」と呼びました。
当初、これはプログラム上の意図せぬ挙動(バグに近い仕様)や、画面端などの限定的な状況でのみ発生する現象でした。
しかし、この「浮いた相手を拾う」という行為が持つカタルシスと戦略的優位性は、プレイヤーと開発者の双方に新たな可能性を提示しました。
後の『スーパーストリートファイターII X』などでは、このジャグリングが一部の技(ディージェイのジャックナイフマキシマム等)で正式な仕様として調整され始め、空中コンボの原始的な形態が誕生しました。
2.2 発展期:『ヴァンパイア』シリーズとチェーンコンボの導入
カプコンの『ヴァンパイア(Darkstalkers)』シリーズは、空中コンボの進化において極めて重要な役割を果たしました。
このシリーズで導入された「チェーンコンボ(ハンターシリーズ)」は、通常技を弱・中・強の順に押すだけでキャンセルがかかり連続ヒットするという画期的なシステムでした。
これにより、「目押し」と呼ばれる高難易度なタイミング入力を必要とせず、リズムよくボタンを押すだけでコンボが成立するようになりました。
この地上でのチェーンコンボの概念が、後の空中コンボの操作体系(空中で弱・中・強と繋ぐ)の基礎となりました。
2.3 革命期:『VS.シリーズ』とエリアルレイヴの確立
真の革命は、前述の『X-MEN VS. STREET FIGHTER』によってもたらされました。
この作品では、空中コンボが「狙って行う高度なテクニック」から「ゲームデザインの核となる基本システム」へと昇華されました。
- 始動の明確化: 特定のレバー入力+強攻撃などで、誰でも簡単に相手を浮かせることができる「ランチャー」の実装。
- 追撃の補助: 打ち上げた後にレバーを上に入れるだけで、キャラクターが猛スピードで相手を追いかける「スーパージャンプ」の実装。
- 空中制御の自由度: 空中で複数の技を繋ぎ、最後に叩きつけて締めるという一連の流れ(シークエンス)の構築。
このシステムの導入により、格闘ゲームの戦場は二次元平面から三次元空間へと拡張されました。
2.4 成熟期:『ギルティギア』と現代的複雑化
2000年代に入ると、アークシステムワークスの『ギルティギア』シリーズなどが登場し、空中コンボはさらなる複雑化と進化を遂げました。
- 空中ダッシュ: ジャンプ中に前後へダッシュできる機能の標準化により、空中コンボのルート構築に「横方向の運び」と「軌道変化」が加わりました。
- ジャンプキャンセル(jc)の多用: 技の硬直をジャンプでキャンセルするテクニックが、特定のシステム技だけでなく、多くの通常技に適用されるようになりました。
- 受身(Tech)の攻防: コンボを受けている側がボタンを押すことで体制を立て直す「受身」システムの導入により、空中コンボ中であっても「受身可能なルートか、確定ダウンか」「受身狩りを狙うか」という、攻撃側と防御側のリアルタイムな駆け引きが発生するようになりました。
第3章:技術的構成要素 ― 空中コンボを成立させるメカニズム
空中コンボを技術的に分解すると、いくつかの重要な構成要素(テクニック)によって成り立っていることが分かります。
ここでは、物理エンジンやフレームデータの観点から、そのメカニズムを解説します。
3.1 始動技(ランチャー)の力学
全ての空中コンボは、相手を地面から引き剥がすことから始まります。
これを担う技を「始動技」または「ランチャー(Launcher)」と呼びます。
| 始動技のタイプ | 物理的挙動 | 戦略的用途 | 代表的な例 |
| 垂直打ち上げ型 | Y軸方向(真上)への強いベクトルを与える。 | その場での高高度コンボ、最大ダメージの追求。 | 『VS.シリーズ』のランチャー、『ギルティギア』のダストアタック |
| 吹き飛ばしバウンド型 | X軸方向(横)へ吹き飛ばし、壁に当てて跳ね返りを誘発する。 | 画面端への運び、位置的優位の確立。 | 『ストリートファイターV/6』のクラッシュカウンター、ドライブインパクト |
| その場浮かせ型 | 地面からわずかに浮かせ、相手の足が離れた状態にする。 | 低空での高速な連係、補正切りの起点。 | 『鉄拳』シリーズの浮かせ技、『KOF』の一部必殺技 |
| 崩れダウン型 | 相手を膝崩れやきりもみ状態でダウンさせ、接地する前に拾う。 | 地上コンボから空中コンボへの移行パーツ。 | 『ストリートファイターIV』のセービングアタックLv2 |
ランチャーがヒットした瞬間、相手キャラクターの状態フラグは「地上(Ground)」から「空中(Air)」へ切り替わります。
これにより、地上専用の防御手段(しゃがみガードなど)が無効化され、空中専用の判定処理が適用されるようになります。
3.2 キャンセルシステム:ジャンプキャンセル(jc)とハイジャンプキャンセル(hjc)
空中コンボを継続させるためのエンジンの役割を果たすのが「キャンセル」システムです。
特に「ジャンプキャンセル(Jump Cancel, jc)」は、空中コンボの心臓部と言えます。
通常、攻撃技には以下の3つのフェーズがあります。
- 発生(Startup): 攻撃判定が出るまでの準備時間。
- 持続(Active): 攻撃判定が出ている時間。
- 硬直(Recovery): 攻撃後の隙、元の姿勢に戻るまでの時間。
ジャンプキャンセルとは、技がヒット(またはガード)した瞬間に、3の「硬直」フェーズをスキップして、即座にジャンプ動作(Pre-jump frames)へ移行する処理のことです。
これにより、相手が吹き飛んでいる最中に自分も追随することが可能になります。
さらに、『VS.シリーズ』や一部のコンボ重視のゲームでは、「ハイジャンプキャンセル(hjc)」や「スーパージャンプキャンセル(sjc)」が存在します。
これは通常のジャンプよりも初速が速く、高度が高いジャンプでキャンセルを行うもので、高く打ち上げられた相手を捕捉するために必須のテクニックです。
3.3 空中チェーンコンボとマジックシリーズ
空中に移行した後、どのように技を繋ぐかという「文法」にあたるのが「チェーンコンボ」です。
カプコン系タイトルでは「マジックシリーズ(Magic Series)」とも呼ばれます。
これは、特定の順序でボタンを押すことで、前の技の戻りモーションを次の技の出かかりでキャンセルできるシステムです。
- 弱→中→強(昇順): 最も基本的なルート。ダメージ効率とヒット数を稼ぎやすい。
- 弱P→弱K→中P→中K…(ジグザグ): より多くのヒット数を稼ぐためのルート。
- 特殊ルート: キャラクターによっては「強→弱」のような変則的なルートや、特定の技同士でのみ繋がるルートが存在します。
このシステムのおかげで、空中という不安定な状況下でも、プレイヤーは事前に記憶したパターン(手癖)を入力するだけで、複雑なアニメーションを伴う連撃を繰り出すことができます。
3.4 慣性制御と空中ダッシュ
高度な空中コンボでは、単に技を出すだけでなく、自キャラクターの「位置取り」を微調整する必要があります。
- 慣性ジャンプ: 地上からダッシュの勢いをつけたままジャンプすることで、空中で大きく横に移動しながらコンボを行う技術。
- 空中ダッシュ(Air Dash): ジャンプ中に「→→」などを入力し、軌道を鋭角に変える技術。これにより、相手を追い越して背後から攻撃したり(裏回り)、相手を運ぶ距離を伸ばしたりすることが可能です。
- 2段ジャンプ(Double Jump): 空中でもう一度ジャンプし、高度を再上昇させてコンボを延長する技術。
これらの移動アクションを攻撃の合間に挟むことで、コンボの継続時間を延ばし、より多くのダメージを与えることができます。
第4章:システム的制約とゲームバランス ― 数理モデルによる調整
もし空中コンボが無制限に繋がると、一度の攻撃ヒットで試合が決着してしまう(即死コンボ)リスクがあります。
これを防ぎ、競技性を維持するために、開発者は複雑な数理モデルを用いた「補正」システムを導入しています。
4.1 ダメージ補正(Scaling/Proration)
コンボが長くなればなるほど、技一発あたりのダメージが減少する仕組みです。
- ヒット数補正: ヒット数(Combo Count)が増えるごとに、ダメージに乗算される係数が減少します。
- 例:1ヒット目(100%)→ 2ヒット目(90%)→… → 10ヒット目(10%)
- 始動補正(Initial Proration): コンボの始点となった技の性能に応じて、初めから強い補正をかける仕組みです。
- 発生の早い小技(弱攻撃)から始まったコンボは、発生の遅い大技(強攻撃)からのコンボよりもダメージが伸びにくく調整されます。
- 最低保証ダメージ: どんなに補正がかかっても、超必殺技などの特定の大技だけは「最低でも◯◯%のダメージを与える」という保証値が設定されていることが一般的です。これにより、コンボの締めに大技を使う意義が生まれます。
4.2 浮き調整と重力補正(Gravity Scaling)
ダメージだけでなく、コンボ中の相手の物理挙動も変化します。
- 重力補正: コンボが進むにつれて、相手にかかる重力加速度が増加します。これにより、相手の落下速度が速くなり、徐々に拾い上げるのが困難になります。
- ヒットバック補正: 攻撃が当たるたびに相手が吹き飛ぶ距離が徐々に長くなり、リーチの短い技が届かなくなります。
- 受身不能時間の減衰(Hitstun Decay): コンボが長くなると、攻撃を当てた際の相手の硬直時間(操作不能時間)が短縮されます。これにより、永久コンボ(Infinite Combo)の成立を防いでいます。
これらの物理的な制約により、プレイヤーは「無限に繋ぐ」ことではなく、「限られたリソース(高さ、距離、時間)の中で最適なルートを選択する」ことを強いられます。
これが空中コンボのパズル的な面白さを生み出しています。
4.3 補正切り(Reset)という高等戦術
上級者は、これらの補正システムを逆手に取った「補正切り(Reset)」と呼ばれる戦術を使用します 6。
これは、コンボをわざと途中で中断(ドロップ)し、相手が着地したり体勢を立て直そうとしたりする瞬間に、あえてコンボとして繋がらない(しかし回避困難な)次の攻撃を仕掛けるテクニックです。
コンボが一度途切れるため、システム上のコンボ数はリセットされ、ダメージ補正や重力補正も初期値に戻ります。ここから再度コンボを始動できれば、補正のかかった状態でコンボを続けるよりも遥かに高い総ダメージ(期待値)を叩き出すことができます。
ただし、これは「確定したダメージ」を捨てて「不確定な大ダメージ」を狙うギャンブルであり、相手に反撃されるリスクも伴います。
第5章:戦略的価値 ― なぜリスクを冒して空を飛ぶのか
空中コンボは操作が難しく、失敗するリスクもあります。
それでもプレイヤーが空中コンボを習得し、実戦で狙うのには、ダメージ以外にも明確な戦略的理由があります。
5.1 状況有利(Okizeme)の獲得と支配
空中コンボの最大のメリットの一つは、コンボの締めくくり(Ender)をコントロールし、相手を強制的にダウンさせられる点にあります。
多くの空中コンボは、相手を地面に叩きつける技(Knockdown)で終了します。
これにより、以下の「起き攻め(Okizeme)」の有利な状況を作り出すことができます。
- ハードダウン(Hard Knockdown): 相手が即座に受身を取れないダウン状態。これにより、相手が起き上がるまでの時間を完全に掌握でき、詐欺飛び(Safe Jump)やセットプレイの準備が可能になります。
- 強制交代: 『VS.シリーズ』などでは、空中コンボで相手を画面外に吹き飛ばし、強制的に控えキャラクターを引きずり出すことができます。これは相手の戦術プランを崩壊させる強力な手段です。
「起き攻めすると友達をなくす」という冗談があるほど、一方的な起き攻めループは強力であり、その状況を作るための手段として空中コンボは最適です。
5.2 運び(Corner Carry)の性能と空間支配
空中コンボは、相手を空中に拘束しながら自分も移動する性質を持つため、「相手を運ぶ」能力に長けています。
格闘ゲームにおいて、画面端(Corner)は防御側にとって地獄です。
後ろに下がれないため、距離を取ることもできず、壁バウンドを利用したさらなる追撃を受けるリスクも高まります。
コンボのダメージ自体が平均的であっても、空中コンボを利用して相手をステージ中央から画面端まで運ぶ(Carry)ことができれば、その後のラウンド展開において圧倒的なアドバンテージを得ることができます。
現代の『ストリートファイター6』などでも、コンボ選択において「ダメージよりも運び」を優先する場面は多々あります。
5.3 ゲージ回収(Meter Build)とリソース管理
多段ヒットする空中コンボは、攻撃を当てるたびに増加する「スーパーコンボゲージ(Super Meter)」の回収効率が良い傾向にあります。
- 攻撃側のメリット: 長いコンボを決めることで、コンボ中にゲージを溜め、締めに超必殺技を使ってさらにダメージを伸ばすという「自給自足」が可能になります。
- 時間稼ぎ: コンボ演出中は試合時間のカウントが進むため、体力リードしている状況で時間を消費させる(タイムオーバー勝ちを狙う)ための戦術としても機能します。
5.4 精神的ダメージ(Mental Damage)
これはデータには表れない要素ですが、長い空中コンボを決められることは、防御側のプレイヤーにとって大きなストレスとなります。
自分のキャラクターが成す術なく空中で舞わされている間、防御側は操作を受け付けず、ただ画面を見ていることしかできません。
この「操作不能時間」は、防御側の集中力を削ぎ、焦りを誘発します。
コンボが終わった後の起き攻めで、焦った相手が不用意な暴れ(ボタン連打)をしてくれれば、さらに追撃を決めるチャンスが生まれます。
第6章:タイトル別ケーススタディ ― 多様化する空中コンボの生態系
空中コンボの実装形態は、ゲームタイトルによって大きく異なります。
ここでは主要なタイトル群における特徴的なシステムを比較・分析します。
6.1 VS.シリーズ(『X-MEN VS. STREET FIGHTER』~『MvC3』)
「エリアルレイヴ」の総本山である本シリーズは、最も自由で派手な空中コンボを特徴とします。
- 主なシステム: エリアル開始技、スーパージャンプ、チェーンコンボ。
- 特徴: 『MARVEL VS. CAPCOM 3』では、「チームエリアルコンボ(TAC)」というシステムが導入されました。これは、空中コンボ中に方向キー+特殊ボタンを入力することで、控えのパートナーと交代しながらコンボを継続するシステムです。横・上・下方向の入力によって、ゲージ奪取やダメージアップなどの効果が変化し、読み合い(TACジャンケン)が発生します。
6.2 アークシステムワークス系(『ギルティギア』『ブレイブルー』)
高度な操作技術とスピーディーな展開が特徴のアニメ格闘ゲームです。
- 主なシステム: ガトリングコンビネーション(チェーンコンボ)、空中ダッシュ、ロマンキャンセル。
- 特徴: 「ロマンキャンセル(RC)」などのシステムを使用することで、通常は繋がらない技同士を無理やり繋げたり、コンボの自由度を極限まで高めたりすることができます。また、防御側の「バースト(Burst)」システム(コンボを緊急回避する衝撃波)の存在により、「いつバーストを使わせるか」「バーストを読んだコンボルート(バースト対策)を選択するか」という高度な駆け引きが存在します。
6.3 『ストリートファイター』シリーズ(『SFV』『SF6』)
「地上戦」を重視する本シリーズでは、空中コンボは比較的制限されていますが、重要なダメージソースであることに変わりはありません。
- 主なシステム: ジャグルポイント管理、必殺技キャンセル。
- 特徴: 『ストリートファイターV』や『6』では、VSシリーズのような自由なチェーンコンボによるエリアルレイヴは原則として存在しません。代わりに、「対空技で浮いた相手に特定の技で追撃する」「ドライブシステムを使って地上コンボを延長し、空中の相手を拾う」といった形式が取られます。特に『SF6』では、ドライブゲージを消費する「ドライブラッシュ」などを絡めることで、地上と空中を行き来するような複雑な運びコンボが可能になっています。
6.4 3D格闘ゲーム(『鉄拳』『ソウルキャリバー』)
3D格闘ゲームにおける空中コンボは、2Dとは異なる物理法則に基づいています。
- 主なシステム: バウンド、スクリュー、トルネード。
- 特徴: 攻撃側が一緒に空へ飛ぶのではなく、浮いた相手を地上から的確に「拾う」技術が求められます。『鉄拳』シリーズでは、相手を地面に叩きつけてバウンドさせる(バウンド/スクリュー/トルネード)ことで、コンボの中継点を作り、さらに追撃を伸ばすシステムが採用されています。壁との距離や角度を計算に入れたコンボ選択(壁コンボ)が勝敗を分けます。
6.5 『DNF Duel』などの新作タイトル
近年のタイトルでも、空中コンボの文法は受け継がれています。
- 特徴: 『DNF Duel』では、MP(マナ)ゲージを使用したスキル技を連続で叩き込む豪快なコンボが特徴です。空中での判定が強いグラップラーなどのキャラクターも存在し、空対空での読み合いや、ガード硬直を利用した崩しからのコンボ始動など、クラシックな要素とモダンな簡易入力が融合しています 9。
第7章:実践的テクニックと習得へのロードマップ
空中コンボは一朝一夕に身につくものではありません。効率的な習得のためには、段階的な練習と、デバイスへの理解が必要です。
7.1 分割練習法(Chunking Method)
心理学における「チャンク化(情報の塊)」の概念を応用し、長いコンボを複数のパーツに分解して練習する方法が推奨されます。
- 始動パーツ: 地上技からランチャーを当ててジャンプキャンセルするまで。
- 空中パーツ: 空中でのチェーンコンボ(例:J弱→J中→J強)の入力リズム。
- 着地パーツ: 空中コンボ終了後の着地硬直からの起き攻め準備。
これらを個別に反復練習し、それぞれの成功率が90%を超えてから、全体を繋げる練習に移行します。これにより、どこで失敗しているか(課題点)が明確になります。
7.2 入力デバイスと操作技術
空中コンボの精度は、使用するコントローラー(デバイス)によっても影響を受けます。
- アーケードスティック(アケコン): レバー操作による直感的な入力が可能。手首全体を使うため、長時間のプレイでも指への負担が分散されますが、正確な方向入力(特に斜め入力)には熟練が必要です。
- ゲームパッド(パッド): 親指での操作が主。現代のパッドは性能が向上しており、トッププレイヤーでも使用者は多いです。ただし、複数のボタンを同時に押す操作などはアケコンに劣る場合があります。
- レバーレスコントローラー(Hitbox等): 移動をボタンで行うタイプ。「ニュートラル(入力なし状態)」への復帰が最速であり、理論値最強とも言われます。特に、ジャンプキャンセルなどの高速入力において高い精度を発揮しますが、直感的な操作感とは異なるため慣れが必要です。
7.3 リズムと「手癖」の構築
格闘ゲームの入力は、視覚情報(Visual)よりも聴覚・触覚的なリズム(Rhythm)に依存する部分が大きいです。
画面を見て「当たったから次を押す」という確認(Hit Confirm)も重要ですが、空中コンボの最中は「タタタン、タターン」というような特定のリズムでボタンを押すことが求められます。
これを「手癖」として小脳レベルまで落とし込むことで、実戦の緊張下でもミスのないコンボが可能になります。
7.4 トレモ(トレーニングモード)の活用
現代の格闘ゲームには充実したトレーニングモードが搭載されています。
- ダミー設定: 「ガード後即ジャンプ」「ガード後最速暴れ」などの設定を活用し、コンボが途切れた際のリスクや、補正切りの練習を行います。
- キーディスプレイ: 自分の入力履歴を表示させ、「斜め入力が抜けていないか」「ボタンを押すタイミングが早すぎないか」を客観的に分析します。
第8章:結論 ― 創造性と自己表現としての空中コンボ
本記事では、空中コンボ(エリアルレイヴ)について、定義、歴史、技術的メカニズム、そして戦略的価値の観点から多角的に分析を行いました。
8.1 分析の総括
空中コンボは、単なる「ダメージを与える手段」という枠を超え、以下の複合的な役割を果たしています。
- 戦術的優位性の確立: 起き攻め状況の創出や画面端への運びといった、試合全体を支配するための手段。
- リスク・リターンの調整弁: ダメージ補正や重力補正といったシステムにより、プレイヤーに「最適なルート選択」という知的遊戯を提供。
- エンターテインメント性: 華麗なコンボは観客を魅了し、eスポーツとしての格闘ゲームの視聴体験価値(Viewership)を向上させる。
8.2 今後の展望
近年、『ストリートファイター6』の「モダン操作」や、『グランブルーファンタジー ヴァーサス』の簡易入力など、格闘ゲームは「操作の簡略化」へと舵を切っています。
これにより、かつては数百時間の練習が必要だった空中コンボが、ボタン一つで、あるいは簡単な連打で繰り出せるようになりつつあります。
しかし、これは空中コンボの深みが失われることを意味しません。
操作のハードルが下がることで、より多くのプレイヤーが「読み合い」や「戦略構築」という本質的な楽しさに早期に到達できるようになります。
また、トップ層においては、簡易入力では出せない最適化ルートや、フレーム単位の微調整を要する職人芸的なコンボが依然として存在し、競技性の天井(Skill Ceiling)は維持され続けています。
空中コンボは、プレイヤーの創造性(Creativity)と努力(Effort)をキャンバスに描くための筆であり、対戦相手との対話を行うための言語です。
重力という物理法則に抗い、空中で舞うその一瞬に、格闘ゲーマーたちは自らの魂を込めているのです。
以上をもって、空中コンボおよびエリアルレイヴに関する包括的研究報告といたします。
本稿が、この深淵なる技術体系の理解の一助となれば幸いです。
